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或るエジプト十字架の謎 柄刀一 心臓移植手術を受けたカメラマンの南美希風が、アメリカの法医学者エリザベスと迷宮入りしそうな事件を緻密なロジックで、自ら立てた仮説を証明していく、ロジックマニアの本領発揮!

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或るエジプト十字架の謎 柄刀一

目次

内容紹介、感想

犯人の心理状態、犯行時の犯人の必然的な、あるいは不自然な行動から、何が起こったのかを推理してゆく。
そして、事件には情交がよく絡んでいる。
また、犯人は犯罪を犯したあと、保身計画をするという共通点もある。が、それをしたのは、犯人だからこそ、という攻め方である。それは状況証拠以上の推論、なので物的証拠が弱い気もするが、それは警察の仕事であると割り切って、南美希風が犯人を特定して、ロジカルに詰めていくところを楽しもう。

或るローマ帽子の謎

ローマ帽子

まず、登場人物を把握して、犯罪が起こる背景を掴んでおこう。
南美希風(みなみみきかぜ) 未婚 カメラマン、東京にある芸術大学の造形学科のOB

・南美貴子(みなみみきこ)みきかぜの姉
エリザベス・キッドリッジ:アメリカの法医学者 女性 南の心臓移植手術を成功させたロナルド・キッドリッジの娘 40代未婚
・権藤警部
・稲田刑事
・谷中栄一郎(やなかえいいちろう) 66歳、トランクルーム管理人

ある貸しビル業者が営んでいるトランクルームで、管理人の谷中が死体を発見した。

発展途上国の検視官が参加している世界法医学交流シンポジウムに参加していた南美希風とエリザベスは、その最中に事件の呼び出しが掛かった。

どうやら、南美希風くんは、事件解決の高度な能力を認められた、北海道警の特別捜査官という位置づけらしい。表向きはエリザベスのオブザーバー。

登場人物の性格が分かってくると、ほう、ということは、そろそろ美希風くんが現場の刑事たちを驚かせるような働きでもするのかな、とわくわくしてくるのである。

そして、さらに事態を面白くすることが、権藤警部から部外者のエリザベスと南くんに告げられた。

実はこの現場にコカイン密売組織が絡んでいて、捜査一課と麻薬取締部が協力しているのだが、なんと内通者が複数人いるらしいとのこと。

つまり、エリザベスと南は、その内通者の炙り出しに協力することになったのだ。

現場から無くなった、大きなコカインを入れておいたハズの箱・・・
そして、刑事がトランクルームの違和感に気づいたことをきっかけにして、南美希風の落ち着いた推理が始まった。

ついに、南の推理に警察も納得する。
解決の糸口となる発想がどうやって湧いてきたのかという点は、頭がいいとしか、説明のしようもない。
読者には、その思考の流れを楽しんでほしい。


或るフランス白粉(おしろい)の謎

永遠に眠る女性

今回も、南美希風とエリザベスのコンビが事件現場に到着した。
この事件は、昨日の事件と関連があるらしい。そうか、まだ物語は続いていたのか!

足立区の高級住宅街にある八田邸、その奥の応接室の中央の応接セットに、老女がひとり、仰向けに横たわっていた。

今回は、現場見取り図の絵が掲載されており、分かり易い。描写だけではどうもイメージが湧きにくいので、これは助かる。

部屋には、茶色い紙に包まれた、ひとにぎりのコカインがあった。
亡くなった八田園枝80歳は、麻薬をさばく組織の主要幹部とのこと。

彼女は資産家であり、だからこそ、その資産を増やす危ないことにも手をだしたようだ。

昨日の犯人が、犯行後ここに来て犯行に及んだとした場合、どのような理由が考えられるか、白い粉が巻かれた理由は何か?

発見者は、唯一の親族、甥の三ツ谷憲吾の妻、凛子である。
凛子さんが、毎日園枝の世話のために7時30分に、ここに来る。

今回だけは、なぜか8時30分に来るように園枝さんからLINEのメッセージがあったが、おそらく犯人が送信したものという結論になった。

凛子さん側や殺された園枝さんにも、当日急な用事もなかったらしいということで、犯人像は迷宮入りしそうだった。

そして、現場の状況(光の具合)を事件当時と同じように再現するため、なぜか落とされていたブレーカーを投入したとき、テレビのスイッチが入った。
そして、殺人現場に置いてあった扇風機のスイッチも入ってしまった。
飛び散る、舞う白い粉、現場保存の鉄則が打ち砕かれた瞬間だった。


だれもが、落胆していたが、このブレーカー投入がむしろ犯人を追い詰めることに。

南美希風の立てた仮説、「こういう人が犯人なら、8時30分に死体が発見されるようにする必要性はありましたよね・・・」

なかなか面白い。ちょっと警察が頼りなく見えなくもないが・・・。

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或るオランダ靴の謎

オランダ靴

この話も登場人物が多いので、整理しておく。
・大槻旭は、南信濃総合病院の副院長で、忠資の兄 (兄が副院長なの?)

・大槻忠資(ただすけ)は、南信濃総合病院の院長で、50歳くらい。
・大槻未華子は、忠資の妻

・大槻ひなこは、娘、高校二年生
・コブシは、ペットのシェパード犬

・生瀬尚央(いくせなおちか)は、未華子の兄の息子(甥っ子)、30歳で背の高いドッグトレーナー
・朝霞さおりは、尚央の恋人29歳

・豊海叶恵(とよみかなえ)、夫の代理、夫は国際間移植医療推進NPO理事長、エリザベスの父と親交あり

大槻夫妻の大邸宅に、国際間移植医療推進NPO関係者らが招かれた。パーティーかな。
南美希風、エリザベスのほか次の4人が参加した。
・豊海叶恵
・大槻旭
・生瀬尚央
・朝霞さおり

どう考えても、兄が副院長の設定は、この物語で殺人が起こるなら、兄が弟の院長を消したいだろうと考えられた。

そして、翌朝、予想通りに弟の院長の死体が発見されるのである。
ありがたいことに、P155に現場周辺略図が記載されている。
おや、朝霞さおりが泊っているはずの部屋に「八田」と書いてある。誤植だろうか。
前の謎「或るフランス白粉(おしろい)の謎」に登場した八田園枝さんと関係があるのか。とりあえず、このまま読み進めた。

だが、事件に関係するエリアは、その略図には載っていなかった。

母屋に泊った数人と離れの平屋に泊った女性たちとで、被害者の残したと思われている足あとを介して、ある攻防がなされていた。

南美希風は、これらの状況と、自分が見たものから、細かい推理を立て、犯人と目星をつけた人物を、論理的に追い込んでゆく。

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或るエジプト十字架の謎

十字架


東京にある芸術大学の造形学科の夏の合宿。群馬県の山間部。そこにOBの南美希風も参加していた。

参加者は、
・三年生 古澤辰巳(こざわたつみ) リーダー
・三年生 小石川一平
・二年生 浅虫仁
・二年生 小里ちか
・二年生 松野奈々子

南美希風は、学生たちに写真を通しての造形的な発想を教えるために、外部講師として参加していた。夕食後の酒盛りで、小石川と浅虫は、ちょっと飲み過ぎていた。

翌日、小里ちかが、南美希風の部屋をノックする。ただ事ではない様子。
中央広場の標識に、首のない男が縛り付けられているという。
そして、学生らは、その死体の着衣から、死んでいるのは、竜川司という学生で、造形学科で五人とは親しかったという。

小石川がようやく、ことの真相を語り始めた。竜川と松野奈々子は付き合っており、昨晩は、サプライズで竜川が松野にプロポーズする手はずだったという。小石川はこのサプライズを知っていた。

だが、竜川は現れず、今朝、死体となって、かつ無残な状態で発見されたということになる。

想像力の豊かな読者であれば、もうぼんやりと犯人像が浮かんだかもしれない。
昨夜の各人の時間帯別の行動を洗い出して、アリバイを確認する。
また、死体の磔(はりつけ)のような状態に必然性があるかという視点からの推理によって、凡人の、いや優秀なのだが、刑事らの推理を超える推理を、南美希風はしてしまうのである。

エリザベスが最後に、「まったく、ロジックマニアか」と、呆れていることからも、そのことは分かる。
観察好きでロジックマニアの方は、是非一読をお勧めします。

柄刀一さんのプロフィール

1959年北海道生まれ。1994年、鮎川哲也編『本格推理3』に「密室の矢」が初掲載。1998年『3000年の密室』で長編デビュー。(本書の紹介文より)

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著者の作品

近著に、『密室の神話』『猫の時間』『月食館の朝と夜』『ミダスの河』などがある。(本書の紹介文より)


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