鯨統一郎 桜川東子シリーズ 「テレビドラマよ永遠に」
渡る世間に殺人鬼
いつものバー。とりとめのないバカ話で盛り上がっていると、植田刑事の携帯が鳴る。
事件だ! 飛行機の中で殺人鬼が消えた?
常連メンバーと千木良青年が、ある可能性を指摘するが、人間ひとりを消すことは無理だった。
そしてついに、桜川東子令嬢がみごとな推理を披露する。
あなたも、桜川東子に挑戦してみたらどうかな。
ちなみに私が考えたトリックとは答えが違っていた。くやしいが、負けを認めよう。。。
時効ですよ
今宵の話題は二十五年前の「資産家のご令嬢、行方不明事件」である。
桜川東子さんが、現在の警視総監がご自宅に来られて、その事件の話をされていた、という話をするに及んでは、植田刑事が驚いて開いた口がふさがらないようだ。
東子さんは、涼しげな表情でラム酒ベースのダイキリを飲んでいる。
ラム酒はサトウキビから作られ、木樽醸成を行う。黒糖焼酎もサトウキビから作られるので似たようなものらしい。木樽醸成はしないらしいが。たしかに、ものを覚えるときは、このようにむしろ関連するようなことと紐づけた方が記憶に残るし、知識も倍になるのだ。
その資産家というのは、奥さんの永谷博子(地主)で、亭主から娘さんの捜索願が出されたという。
亭主は子連れ(娘のみはね)の再婚で、永谷博子からは入籍を認められていなかったらしい。
その後、出入り業者の男が、みはねと恋仲になるが、みはねは失踪(これが、資産家のご令嬢、行方不明事件)し、業者の男は、その後も永谷家に出入りを続け、今度は永谷博子に手を出して結婚してしまったという。
当時の植田刑事が、捜索願いが出された翌日、たまたま巡回パトロールで永田家を訪れ、玄関の壁に血痕をふき取った跡があったというが、来訪していた知人が料理中に手を切って、玄関横の洗面所に行くときに溢れた血が付いただけというそれらしい理由であったので、それ以上詮索しなかったらしい。
どうやら、今日はこの事件の話をすることになったようだ。
推理が始まるのかと思っていたら、テレビドラマの思いで話が延々と炸裂しつづける。これは推理小説ではなくて、おじさんの思い出話とダジャレの小説ではないか、とさえ思えてきた。
バーでは、下記の常連さんが、事件の真相について、いろいろな仮説を立てては論理的に考証しながら、今宵も脱線ばかりするが、それぞれが持ち味を出しつつ、世間話と推理を進めていく。
要所要所で、東子さんと千木良青年が方向を修正したり、植田刑事が大事な情報を後出ししたりして、みんなに文句を言われながらも世間話的推論のなかで徐々に核心に近づいてゆく。
ついには、ひとつの結論に辿り着く。
得をしたのは、捜査情報を漏らして、みんなに推論してもらった植田刑事だと思うが、どうだろう。
・永谷博子(資産家)
・永谷伸治(博子の夫、未入籍:財産もらえない)
・永谷みはね(業者の男と恋仲に、のちに失踪)
・業者の男(みはねと恋仲に、のちの博子と結婚)
主な登場人物
マスターの島(小太り)
山ちゃんこと山内(背が高くてやせ型、窃盗で服役済)
僕こと工藤(窃盗で服役済、服役中に小説を書いた)
桜川東子さん(深窓の令嬢、謎解きが趣味?)
いるかちゃんこと阪東いるか(バイトの女の子、昼はOL、二十三歳)
千木良青年(映画館の映写技師)
植田刑事(警視庁、五十歳くらい)
渡辺みさと刑事
鯨統一郎さんのプロフィール
1998年『邪馬台国はどこですか?』でデビュー。傑作・怪作・奇作・話題作を連発する、本格界随一のトリック・スター。
近著に「銀幕のメッセージ」「タイムメール」「戦国武将殺人紀行」「恋と掃除と謎解きと」「女子大生つぐみと邪馬台国の謎」など(本の紹介文より)
〆