MENU
ホーム » 書評 » SF » 最先端のVRゲームと最近話題になっている人工知能(AI)が大切な要素のSF的ミステリー 「火刑列島」(森晶麿 2018年6月 初版発行)
この記事の目次

最先端のVRゲームと最近話題になっている人工知能(AI)が大切な要素のSF的ミステリー 「火刑列島」(森晶麿 2018年6月 初版発行)

  • URLをコピーしました!

当サイトはアフィリエイト広告を利用しています。

目次

内容紹介、背景

火刑列島 森晶麿

1.ロウソク邸とむらさきの火

露木、ホムラ、緒ノ帆の三人は、画家・柳楽武の邸が火事になるという予現を得てそこへ向かった。
出迎えたのは、妻の晴美。ロウソクのようにほっそりとした若い女性だった。
柳楽は現在、スランプで絵が描けないという。それが今から起こる火災と関係があるのだろうか。

スランプ前に描いた 東帝展覧会で金賞を取ったのは女性のヌード画だった。
この女性にはモデルがいたという話をすると、妻の晴美はモデルは炎だという。
よくわからない。

緒ノ帆の敬愛するガストン・バシュラールは、もっとも原始的な感情の現象学として、「火は刹那を生きる人間の幸福を支えるもので、人間の全体性を示す愛」と論じている。
柳楽が絵をかくときに火を用いるのは、それが愛の比喩だからと分かった。

だが、柳楽への取材では、モデルは実在した人間だと言った。

そしてその夜、予現は的中する。なぜ、火災は起こってしまったのか・・・
ロック画面の女性は、PCの中で笑っていた。
謎を解いた三人は、次の現場へ向かう。

火刑列島 森晶麿

2.ヨハネ黒騎士修道院の見えざる火

露木、ホムラ、緒ノ帆の三人が向かったのは、多治見市にあるヨハネ黒騎士修道院。

事件はすでに起こっていた。
植松修道士が煙を吐いて亡くなったという。そしてその日に白いマリア像が倒れていた。
修道院の医師は、他殺の可能性を進言したが、ユリアヌス司祭はこれを一蹴したのだ。

事件が起こったあとに、三人はちょうど修道院に到着するが、緒ノ帆は、老齢の河合修道士に「シスター茜」と間違えられて襲われる。
緒ノ帆を助けたマザー横沢は「火と煙と硫黄の組み合わせは、ヨハネ黙示録によれば、悪人への裁きと関連している」という。
これは、植松修道士が煙を吐いて亡くなった事件と関連するのであろうか。
ちょうど修道院をのぞき込んでいた小金井教授と会う。そこで露木が、パスカルの火について言及する。「パスカルの妹の人生は、小金井教授兄妹と重なる」と。これがヒントかも知れない。

ヨハネ黙示録。謎を解いた三人は、次の現場へ向かう。

<主な登場人物>
ゲオルグ神父
マザー横沢:地面に転がっていた白きマリア像を造営した。
ユリアヌス司祭
植松修道士:数日前から狂気、口から白い煙を吐いて死んだ。
シスター茜
シスター野々村
小金井教授(シスター茜の兄)

火刑列島 森晶麿

3.わるい狸と走る火

露木、ホムラ、緒ノ帆の三人は、露木が予現した次の火災が発生する現場へむかった。
緒ノ帆が幼い頃過ごしたところ。悪さをする狸の数は六匹と予現した露木。
途中の道の駅で、緒ノ帆を降ろして、二人で現場へ向かうが、火事は数か所で起こるという。
木村さんが営む道の駅のラーメン貴夢羅。そのラーメン屋に入った緒ノ帆に火が襲い掛かる。
そして、森で車を停めた露木とホムラの前でも火が走り、近くの別荘から火の手が上がる!
どうやら、この岡山地方のキュウモウ(狸)さま伝説が関係しているようだ。

緒ノ帆が幼い頃、弓猛町の寄合いに母と行ったとき、話し合いが終わるまで外の弓猛森(ゆみたけもり)で、隣の家の少年が付けた火で遊んでいて、町の男らが姉のハルカの上に乗っていたのを見たことを思い出す。
緒ノ帆らが火遊びをしたおかげで、男たちは驚いて服を着て逃げた。火事に気付いた町内会の人たちが消火を行う。
姉のハルカは泣きじゃくり、会合に出ていた母に抱き着いた。
事件は緒ノ帆が遊んでいた火とともに、キュウモウ様のせいじゃということで、六人の男たちの悪行はうやむやにされたのだ。
このあと、母と姉のハルカは、町を出ていき、緒ノ帆は父に引き取られ、姉とはそれっきりである。


24年経過した今、六匹の狸は、火によって成敗された。だれが・・・。
謎を解いた三人は、次の現場へ向かう。

火刑列島 森晶麿

4.モリヤ・モルト蒸留所の誘う水の火

露木、ホムラ、緒ノ帆の三人が次に向かったのは、関門海峡を越えて、なお南下して鹿児島県霧島である。
モリヤ・モルト蒸留所の所長は昔、よそからやって来た若い娘にインスピレーションを受けて、美味しいウィスキーの蒸留に成功する。
その若い娘とはハルカ・・・

露木は、その蒸留所で大規模な火災が起きると予現する。
蒸留所所長の守屋健斗、後妻の真知子、そして若い長野青年との関係が気になる。

高級ウィスキーは、蒸留所で働く者や町の人たちからすると、とても手の届かない憧れの存在である。
その晩に、そのウィスキーを盗もうとする従業員と所長の後妻真知子と長野青年の動きが怪しい。
火種となりそうな行動を起こしそうである。

露木、ホムラ、緒ノ帆の三人は、その大惨事を防ごうとするが。
露木がアプリを起動すると、メグミの声が言う「男を殺す・・・・・」
想定外のことが起こった。

<登場人物>
蒸留所所長の守屋健斗、60代後半
後妻の真知子、20代
蒸留所で働く長野青年

謎を解いた三人は、次の現場へ向かう。

火刑列島 森晶麿

5.巨神、東京に火雨を降らす

パソコンの電源を入れ、VRゴーグルを装着し、「Project F」を起動し、「HOMURA」にアクセスする。
これは、メグミなのか。メグミのようだ。先端にあるものは、いつだって呪術的だ。理解できないことは神か悪魔のせいにする。

脳科学と人工知能の研究により、ニューロンの神経経路とVR機器の完全なる結合が可能となり、不完全な人工知能を人間が操作することで完全に近づく。
次のターゲットは、東京だ。ネットカフェに「貴婦jin俱楽部」のサービス配信が開始された。

その広大な脳科学と人工知能の結合による幻覚・・・、メグミの目的と三人の関係・・・。
この章で、全ては明らかになる。

拙評・感想

読書前は、「火刑列島」というタイトルは、ミステリー小説としては、やや大げさかなという印象だったが、読み終わってみると、そうではなかったなという印象が残った。
「予現」という新しいキーワードで始まったので、手品のような謎解きが始まるのかと思いつつ読み進めた。
予現者のチャラい性格設定が、軽い恋愛コミックのような感じを前面に出していたため、彼の正体を見誤ったのは著者の思惑通りかと思われた。
私の想定は大いに外れ、最先端のVRゲームと最近話題になっている人工知能(AI)が大切な要素のSF的ミステリーになっている。
目に見えるものがVRなのか、現実なのか、幻覚なのか。VRとミステリーの組合せは面白い。
最先端技術がピンとこないと、内容を理解するのに苦労するかもしれないが、若い読者であれば難なくクリアできるだろう。

広告



主な登場人物

凪田緒ノ帆(なぎた おのほ) 恋人を火災で失った(遺品のスマホのロック画面には下着姿の女性)ガストン・バシュラール研究で知られた現象学者・美人教授、29歳、独身

露木洋伍(つゆきようご) 予現者・予現を動画配信 直近三件の火災事故で被害者のスマホのロック画面にも同じ女性の 画像があることを突き止めている。女の画像検索で「貴婦jin倶楽部というアプリ」がヒットした。

海老野ホムラ(えびのほむら):元消防士のカメラマン、恋人のメグミさんはアフガニスタンでテロリストに拘束され行方不明。

森晶麿さんのプロフィール

静岡県浜松市出身、香川県高松市在住。早稲田大学第一文学部卒業、日本大学大学院芸術学研究科博士前期課程修了。
ライターとして漫画脚本などを手掛けながら小説の執筆活動を続ける。2011年、『奥ノ細道・オブ・ザ・デッド』で第3回日本タイトルだけ大賞を、『黒猫の遊歩あるいは美学講義』で第1回アガサ・クリスティー賞を受賞する。同作に収録されている短編「壁と模倣」の原型となった作品は2004年頃に、別の賞の最終選考に残ったことがある。(Wikipediaより) 〆

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
目次