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グラーフ・ツェッペリン 夏の飛行 高野史緒 読んだ後はノスタルジックな感じが残った。なんだか祖先に対する懐かしさが感じられる。

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拙評

なんといえば、いいのか。読んだ後はノスタルジックな感じが残った。著者と近い年代だからだろうか、ここで描かれる風景には見覚えがある。三丁目の夕日のような通りを走ってツェッペリン号を追いかける。だが装着している拡張現実装置もやや最先端ではないような見栄えなところもうっかりノスタルジックだ。そして拡張現実装置で感じた祖母の重みと感触を、「気持ち」と解釈してみせる。なんだか祖先に対する懐かしみ、ありがたみが感じられる。

あらすじ

夏紀は小学校三年生の時に、グラーフ・ツェッペリン号が墜落するのを見たと言う話を、従兄の登志夫にすると食いついてきた。登志夫は外国の特別待遇研究者であるから、ふざけているわけではない。

登志夫の記憶に依れば、おばあちゃんと夏紀の母も同じような飛行船を見たと言っていたからだ。そして二人はいま、量子コンピュータを使ってスマートフォンで会話している。

『僕が量子コンピュータでやろうとしているのは、いわば逆エンジニアリングの一種だ。』

どうやら、登志夫が作ったらしい夏紀が装着しているゴーグル(拡張現実装置)は、ネット上で削除されたゴミのうすーい痕跡を感知するマシンらしい。登志夫は夏紀にグラーフ・ツェッペリンを追えと指示している。

仮想現実の視界に見えるタグに、グローブを付けた手で触れると、説明が表示される。これは既にある仮想現実のゴーグルにもあると思う。

そして、ゴーグルがダサいとかなんとか文句を言っていると、なんとツェッペリン号が現れた!

現実の風景の画像に、痕跡であろうツェッペリン号が重なる。夏紀は見失わない様に追いかける。

行先は分かっている。霞ヶ浦海軍航空隊の基地(今の陸上自衛隊土浦駐屯地)だ。

七夕まつり状態の商店街を一苦労して通り過ぎる。昔の記憶の風景がゴーグル(拡張現実装置)に映し出される。自覚のない、記憶している風景がゴーグルの中に投影される。

ツェッペリン号を追いかけている最中に、頭の中では物理法則について考えている。ブランク時間や一般相対性理論、次元の問題、あらゆることを疑い出した? 遺伝を情報の流れで捉えることはできるのではないかと考える。初めて来たのに懐かしい場所の記憶も情報の流れの中で繋がったのかも知れない。

飛行機に先導されたツェッペリン号が、高度を下げた。

そして、ツェッペリン号に乗っていたエッケナー博士は、「君たちに電話だ!取りたまえ!」見たことがある銀の折り畳み式携帯電話を放り投げた。夏紀が子どもの頃、母が使っていた。

「もしもし!」電話から聞こえた声は、おばあちゃん!

時間の感覚がおかしくなり、身重のおばあちゃんが目の前でつまずいたのを両腕で抱きとめた。

ゴーグルとグローブを脱ぎ捨てると、夏紀は現実に戻った。

夏紀と登志夫は、違う世界と情報が行き来するような力場がある可能性について意見を交わした。

そんなものがあるとしたら、何と呼べばいい?

「気持ち」でいいんじゃないかな?

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主な登場人物

場所:東京と土浦

祖母タケ

母延子(土浦出身)
└夏紀(高校生)
叔母さん
└登志夫(従兄)
外国の特別待遇研究者

飛行船 LZ127

高野史緒(たかの ふみお)さんのプロフィール(本書の紹介文より)

1966年 茨城県土浦市生まれ。お茶の水女子大学 人文科学研究科修士課程修了。1995年、第6回日本ファンタジーノベル大賞最終選考候補作「ムジカ・マキーナ」でデビュー。2012年、『カラマーゾフの妹』で第58回江戸川乱歩賞を受賞。

著者の作

「カント・アンジェリコ」「赤い星」「時間は誰も待ってくれない 21世紀東欧SF・ファンタスチカ傑作集」(編纂)、「翼竜館の宝石商人」など。


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