『血の記憶』 麻野涼 あらすじ 感想
はじめに
Prime Readingで推奨されたので、一気に読んでしまいました。
目次
プロローグ セミヌード 1再就職 2手錠 3人質 4脅迫 5腐乱死体 6再会 7籠城 8左手首 9労災給付金 10写真 11着衣 12発見 13TV出演 14解放 15疑惑 16謎の報酬 17殺人容疑 18投降 19合同捜査本部 20破滅 エピローグ 新証言
登場人物
道玄坂すみれ 主人公 乳児院と児童保護施設で育ち、今はアイドル
横溝 すみれのマネージャー
BJ ミュージシャン すみれの父親代わり 父はアメリカ兵 フィリピンパブ勤務
生田目メガテクノ
生田目豪 社長 横柄
拝島紗香 娘 横柄 人質
拝島勇 孫 人質
拝島浩太郎 娘の夫 役員
福島次郎 技術生産部長 社長の手先
渡部宏 ハリーナの恋人
元生田目メガテクノ社員
井川 スーパーの遠州灘の警備員 人質
金山 スーパーの遠州灘の警備員 人質 末期がん
すみれの父 アフマド バングラデシュ人
すみれの母 サンドラ パブ勤務
アサド・カーン スーパー遠州灘の立てこもり犯人 左手首は義手
ハリーナ・カーン アサドの妹 福島の愛人 渡部の恋人
浜松南警察署
山科署長
下田刑事 警部補
高尾刑事 巡査部長 下田刑事のバディ
峰岸刑事
東京大森警察署
小早川刑事 警部補
斉藤刑事 巡査部長
政武産業(実質、生田目メガテクノの東京事務所)
政武富美男 社長 元生田目メガテクノの前工場長
あらすじ 感想
アイドルSUMIREは、自分の出生を秘密にして、ここまで来たが、両親が誰なのかが知りたくて、セミヌードの写真集を出版してまで、両親に気づいてほしかった。
場面は変わり、福島が愛人宅でハリーナをもてあそぼうとしていたが、薬を飲まされ、恋人の渡部に山奥の車内に監禁された。助かりたければ、手錠が掛かった左手首を切り落とせばいいと言われ、カッターナイフを渡された。
1990年入国管理法改正
イラン、バングラデシュ、フィリピンからの不法就労の外国人は強制送還、その穴埋めとして中南米から日系人が大量に入国した。3Kの現場では、事故が多発した。
外国人技能実習制度 26万人 労働力不足の解消を図る
1993年に制度化され、東南アジアの若者が多く来日した。中小企業では、技能実習生も生産ラインに入れさせていたため、事故も多くなった。
経済財政運営と基本方針2018(骨太方針)
少子高齢化の克服による持続的な成長経路の実現とサブタイトルがついているが、内容はなんでもかんでも詰め込んだ感じだ。
そして、スーパー遠州灘で、生田目メガテクノ社長の娘と孫、そして警備員の金山と伊川が人質に取られるという事件が発生する。
犯人は、生田目メガテクノ社長と役員の左手首と引き替えに人質二人を解放するという、無茶な要求を出してきた。
傲慢な性格の生田目豪社長は、全く警察を無視し、犯人や警察に対しても部下を叱責するような態度を取り続け、犯人の要求には金で解決しようとする。
ところが、犯人からの要求は金ではないことが伝わり、事件は長期化の様相を呈する。
生田目メガテクノ社長の娘と孫といっしょに人質となった警備員の金山は、持病のガンが悪化するそれがある。
犯人は、23年前に浜松市天竜区の山中で発見された遺体について、生田目社長の口から世間に公表せよという新たな要求を突き付けてきた。
警察は、生田目メガテクノでの労災について調べ始めた。
そして、三年前にバングラデシュ国籍のアサド・カーンが左手を失っていた。
生田目社長は、「現場では様々なトラブルが起きてきたかと思うが、俺は経営のトップで、末端で起きたことにいちいちかまっている余裕はないんだ」と言う。
実習生の労務管理は福島部長がしているが、連絡が取れなくなっているという。
その代わり、捜索願いを出した箱根課長宅を刑事が訪れて質問した。
すると、アサドの事故の件は、社長も知っているはずだという。
アサドは残業代を稼ごうと頑張ったあげく、睡魔に襲われて事故を起こしたようだ。
これだけなら、自己責任とも言えそうだが、労働基準監督署への報告を渋った福島部長は、わずかな見舞金でアサドをバングラデシュへ追い返そうとしたらしい。その恨みを買ったのではないか。でも社長やその家族を標的にするのは筋違いのようにも思われた。
一方、SUMIREが持っていた写真に写る二人の男の背景の工場は、生田目メガテクノの第一工場だと判明する。
テレビの報道で、人質となった警備員の金山の若い頃の写真が放送され、写真に写る二人の男の一人が金山だと分かった。ならば、もう一人の男が父であろうか。
また、写真集のほくろの写真から、SUMIREの正体を確信した男がいた。
それが、BJである。彼は名乗り出た。
彼は、SUMIREの母に日赤乳児院のことを教えたらしい。23年前のことだった。
すぐにも金山に話を聞きたいが、彼はスーパー遠州灘で人質に取られている。
BJとSUMIREは、かつて生田目メガテクノで働いていたという、武政産業の武政社長を訪ねると、驚いたことに左手首を切断された武政社長の死体を発見する。
ここから、生田目メガテクノという会社と傲慢な性格の生田目社長とその忠犬のような部下の犯罪や会社側の対応を問題視する金山との闘いの様子が明らかになっていく。そして、外国人技能実習制度や日系人労働者に絡む問題が具体的に読者にも見えてくる。
この小説のケースは、ほんの一例に過ぎないことは想像に難くない。
我々読者は、想像力を働かせて、この問題を捉え、ブラック企業への対抗の仕方というよりは、自分がどう行動すべきかを考えてみる契機とすべきであろう。
麻野涼さんのプロフィール
1950年埼玉県生まれ。早稲田大学卒業後、ブラジルへ移住。サンパウロで発行されている日系紙パウリスタ新聞(現ニッケイ新聞)勤務を経て、78年帰国。以後、フリーライター。高橋幸春のペンネームでノンフィクションを執筆。87年、『カリブ海の〈楽園〉』(潮出版)で第六回潮ノンフィクション賞、91年に『蒼氓の大地』(講談社)で第13回講談社ノンフィクション賞受賞。2000年に初の小説『天皇の船』(文藝春秋)を麻野涼のペンネームで上梓。文芸社文庫『死の臓器』『死の刻』『死刑台の微笑』『誤審死』と精力的に社会派ミステリーに挑戦している。『死の臓器』が連続テレビドラマ化で話題に。(本書の紹介文より)
〆