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六つの多種多様な依存症の物語 置き引き、ガソリンの匂い、ダイエット、買い物、掻きむしり、スマホなどの依存症は治せるのか その心の叫びを聞いてみるか

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『燃える息』 パリュスあや子 あらすじ 感想

目次

はじめに


この小説は、六つの多種多様な依存症の物語である。
表題の「燃える息」は、ありえなくない?

あらすじ 感想

呼ぶ骨

大学三年生で経済学部の真白の依存症は、「置き引き」
真白は、大学の構内ではしないと決めている。
真白、加奈、朋子、みくりはゼミの仲良し4人組。

ゼミの飲み会の帰り、電車の中の忘れ物に手が伸びてしまった。
最寄り駅で降りて、トイレで中身を確認すると、出てきたのは『骨壺』!

真白の頭は、真っ白…。(なーんてね)

飲み会の帰りに朋子の財布が無くなっていたらしい。
幹事だった真白に疑惑の目が向けられる。
その件は、やっていないが、その他多くの「置き引き」は、真白をうつむかせた。

家に帰って、じっとしているとイライラする。
体が勝手に動き出し、外出する。
「隙を見せる方が悪い。みんなもっとしっかりして!」

無防備で幸せそうな人を、少しだけ不幸にしたかった。
『骨壺』がこのままじゃだめだって、私を読んでくれたんだと解釈することにした。
そして、ついに警察に届けることにしたが…。

燃える息

ガソリンの匂い依存症男、苅田灯馬の話

灯馬は同棲を考えている郁美の家に行く途中、駅で倒れかけた女性を抱きとめて尻もちをついて、スマホが割れてしまった。
弁償するというその女性から連絡先を聞いたが、郁美にその話しはしなかった。
抱きとめたときに、ガソリンの匂いがしたその女性(須賀ほのか)が気になった。

郁美はガソリンの匂いが嫌いだという。
今は遠距離で会うのも大変なので、同棲しようと言われているが、灯馬は躊躇している。
灯馬にとってガソリンの匂いは大切だから。

そして、スマホの弁償のため、須賀ほのかと待ち合わせた。
会話していると、バイクとガソリンの匂いの話になり、二人ともガソリンスタンドでのバイト経験があることが分かり、話が盛り上がって、バイク二人乗りで出かけることになった。

ツーリングデートの帰り、彼女の家に寄ると、ほのかの恐ろしい本性を目の当たりにした。
なんと、ガソリンをおちょこに注ぎ、匂いをかいで恍惚とした表情を見せたあと、そのガソリンを一気に飲んでしまった。驚く灯馬は唇を奪われ、本能のまま一夜を過ごしてしまった。

その後も、ほのかの体に溺れる日々が続いたが、怖くなって友人の亮に相談した。
当然、すぐに縁を切るように言われたが…。

ジューンブライド・バナナパフェ

恭平と芙美香、一年後結婚予定だ。
芙美香がお気に入りのウェディングドレスはきつい。
芙美香はプロテインを飲んで運動して痩せることにした。

ジム通いが板についてきた。お腹も痩せてきて着るものも変わって来た。
指も細くなって婚約指輪もゆるくなった。

結婚式まであと三ヶ月になり、ウェディングドレスの試着!
驚いたことに、一番小さいサイズでも余裕!
でも、恭平が心から喜んでいないような…。
たしかに、全体的に痩せて、胸のふくらみも平になった気はする。

芙美香は、トレーニング依存症になっていて、仕事で凡ミスを繰り返し、夜遅くまでトレーニングして翌日遅刻するようになっていく。

そして、ついにジムで倒れてしまった。
心配して来てくれた恭平が言った。そんなにまでなるなら結婚式はやめよう。芙美香がこんな生活を続けるなら、僕は耐えられないかもしれない…。

やりすぎたのか。二人は歩み寄れるだろうか。

鈴木さんのこだわり

ストーカー女子に会社まで押しかけられた佐藤善太。
善太は美容機器販売会社の営業職だ。
今日もまた会社に姉の隈優子から電話があった。

姉は、父が亡くなって、保険金が降りたのはいいが、母の金遣いが荒くなって心配らしい。
高級化粧品を買いあさり、ボケ初めていて、このままでは詐欺にあって、保険金はすぐに無くなりそうだという。
姉は地方にいて母には目が届かないから、善太に様子を見に行ってほしいようだ。

善太は十年ぶりに実家へ行った。
チャイムを鳴らして、出てきた母が善太の顔を見て言った「どちらさまですか?」

善太は、友人の鈴木ということで、長時間居座って、母の部屋を片付けたりした。
翌日、引き取った大量の高級コスメを女子社員に配ると、女達は驚きと感謝と自分の依存傾向について語り始めるのだった。お母さん、化粧依存症ですか、買い物依存症かな…。

十年前、善太の彼女がイケメンの男と浮気した。
それから善太は、整形すると宣言し、両親に半ば勘当されて家を出た状態だったのが、いまやすっかりイケメンになっていた。
実家を訪ねてきた姉も分からなかったほどだ。

今では善太の友人、「鈴木」として母には認知されている。

善太は整形依存症だ。
前を向いて生きて行くためには、「進化」以外の選択肢はないと思っている。

母に聞いてみた「ほんとは、俺のこと分かってるんでしょ?」
すると母は…

二十一週六日

掻きむしり症候群とでも言うのだろうか。
母には、アトピーということにしているが、実は搔きむしる快感に勝てないのだ。

江麻は、半年前に女子高に入学し、気楽な毎日を送っていたが、ある日突然変化した。
満員電車で通うようになって、とうとう痴漢にあってしまった。
最後まで声も出せなかった。

家へ帰ると、父が帰宅して、「あやうく痴漢に間違えられそうだった」と、えらい剣幕である。
娘の気持ちも知らずに、「置換されそうなかっこをしている方が悪い」という。
江麻はもう、自分が痴漢にあったことは言いだせなくなった。

それから毎日同じ人に痴漢された。胸もお尻も大きい自分が悪いと考えた。

二学期になり、掻いたあとに包帯をまいているので、あだ名は「ミイラ」だった。
クラスメイトの偽善的でクールな間宮さんは、先生からの信頼も厚い優等生で、江麻と違うタイプだが、クラスからは浮いていた。

ある日、痴漢が怖くて途中下車すると、間宮さんがお腹を抱えて座っていた。
事情を聞くと、妊娠しているという。
江麻は驚いて、自分の痴漢のことを打ち明けたが、間宮さんはそれくらい何よという感じだった。
でも、それから二人の仲は近くなった。

そして、間宮さんと一緒の時は、江麻は掻きむしりしていないことに気づく。

ここからは、江麻と間宮さんが、それぞれの秘密を両親に打ち明けるまでの心の葛藤と二人の友情の物語。

ファントム・バイブレーション

灯馬。再び登場?いや、その友人が、「俺」らしい。

ファントム・バイブレーション・シンドロームとは、

実際には着信がないのに、スマホがバイブレートした気がしたり、着信音が鳴った気がしてしまう錯覚、幻覚
この言葉は、初めて聞いたが、調べると1990年代から報告されているという。

ということで、今回は「スマホ依存症」

「俺」は、交差点の信号待ちで押されてスマホを車に轢かれてしまう。
スマホがしばらく無くなって、何をしたらいいのか分からない。

散歩をしてみたが、スマホの音楽が無くてつまらない。
拠りどころが欲しい・・・。

散歩中に発見した民家を改造した小さなケーキ屋
いつもなら、スマホで口コミを調べてから行くのだが・・・。
今回は、それに頼らず店に入り、ショートケーキを注文した!

「俺」は、ファストフード店に入ったが、トレイのチラシにまでQRコードが付いていると気づき眉をひそめた。
(最近、スマホのメニューから注文させる居酒屋に行った。そんなシステムだとは知らなかった。最初はビックリしたが、若い店員は、そんなの当たり前と言わんばかりの態度だったのを思い出した。たしかに、スマホなしでは生きていけない社会をみんなで作っていやがる!!)

家に帰ってぐっすり眠った。起きると久々に気持ちいい。
「スマホ依存症」の原因が分かったような気がした。

(「人生を無駄に消費している」という苛立ちと諦め。これじゃ駄目だと分かっていた。そのほうが楽だから。)

スマホ禁止期間を経て、ようやく壊れたスマホを修理に出したが、その修理代の見積もりは想像を越えていたので、修理を諦めた。


さあ、新しい人間らしい人生が待っている、のか…。

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パリュスあや子さんのプロフィール

神奈川県生まれ、フランス在住。広告代理店勤務を経て、東京藝術大学大学院映像研究科・映画専攻脚本領域に進学。「山口文子」名義で映画『ずぶぬれて犬ころ』(本田孝義監督/2019年公開)脚本担当、歌集『その言葉は減価償却されました』(2015年)上梓。2019年『隣人X』で第14回小説現代長編新人賞を受賞し、デビューに至る。(本書の紹介文より)

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