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この記事の目次

『中野のお父さん』 北村薫 中野のお父さんシリーズのはじめのやつ

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1.「中野のお父さん」 ←これ。

2.「中野のお父さんは謎を解くか」

3.「中野のお父さんの快刀乱麻」

4.「中野のお父さんと五つの謎」

目次

感想

還暦間近の高校の国語教師で、推理が得意なお父さんを持つ編集者の娘の日常のちょっと謎で面白い話である。

2015年9月15日 発行ということは、2025で76歳くらいだから、北村さんが66歳のころ書かれた作品ということになる。北村薫先生の本は、ベッキーさんシリーズが良かったので、その印象で読みましたが、期待を裏切らないものでした。娘と父の関係が、ほんわかしていていい感じです。

物語

夢の風車

この話も父と娘の愛のある話である。

文宝出版の新人賞の選考に残った1つの作品「夢の風車」を担当することになった田川美希は、当選者の国高貴幸氏に電話すると、「投稿したのは、一昨年のことですよ」という。

ミステリーの始まりである!

そんなはずは・・・。アルバイトがデータを取り違えて一昨年だめで、今年残ったとか・・・。

そこで美希が頼るのは、中野のお父さんの名推理。父が言った。
「小説ってのはせんじ詰めれば筋じゃない。どう書くかだろう」

いい落ちだった。

幻の追伸

美希さんは、新卒で入って、最初に女性誌部門に配属された。帰宅時間は不規則になり、見た目もハデになったもんだから、近所の目を気にして、都心のマンションに一人暮らし。お父さんは寂しくてしょうがないらしい。

作家のお手紙の値段とかいう特集をすることになり、古書店へ取材に行くと、思わず面白い掘り出し物に当たった。
著名な作家同士の手紙のやり取りだが、一方は妻子ある蜂川光起、一方の女性は20歳も若かった若森瑠璃子。どちらも他界されているが、遺族はいるわけで、世紀の発見!とかやっていいものか?

その手紙が、ちょっと不思議なのだ。「・・・ふたりこうして結ばれた・・・」なんて書いてあるからラブレターかというわけだが、なぜか原稿用紙に書いてあって、しかも20字を15字にして、8行で書かれているのである。(原稿用紙は、縦を一行と数えるらしい。Excelと逆?)

さて、こまった。まさかとは思ったが、やはり、というか。美希さんは、中野のお父さんに相談するのである。すると、あら不思議、このラブレターの謎が解けて、胸をなでおろすのである。
もちろん、雑誌の特集にも載せることができて、ハッピーエンド?

鏡の世界

出だしの編集部で行ったカラオケの導入部が面白い。つい、どんどん読まされる。漫画みたいな読まされ方だ。

女性誌のイメージキャラクターにハリウッド女優を採用したことがあった。美希が担当になりカメラマンと取材のためアメリカへGO。

そのとき撮った写真の掲載許可をもらうために、よく撮れたデータを十枚送った。
ところが、十枚とも掲載NGだった。このピンチをどう乗り切ったのか!?

その立役者は、今度こそお父さんではなくて、そのカメラマンだったというオチだったはずが(そのオチも内緒ですが)、ここまでがフリだったとは・・・もうひとつ話題があった。

亡くなった作家・画家の加賀山京介の未発表の画帳が出てきたという。
グラビアで発表することになり、美希と若手のカメラマンで物撮りに出かけ、撮ってきた。

実家に行って写真の説明でも考えることにした。あ、やっぱりお父さんが出てきそうやな。

食事のあと、食卓でA4サイズに印刷した写真を並べて見ていると、いっしょに見ていたお父さんが妙なことを言い出した。「その絵、裏焼きじゃないかと思ってね」

どういうことかは読んでのお楽しみ。

闇の吉原

小説誌の編集者は、担当している作家と誰かが対談するとき、そのまとめも行うらしい。

さて対談スタート。

作家の小池先生、若手の落語家。話は佳境に入り、落語家さんが言う。
「時によっては歌も入れますが、—型として俳句が入っている噺もあります」

その噺が、『文七元結』 

腕のいい職人の長兵衛は博奕に取り付かれ、一人娘が借金を返そうと吉原の店へ駆け込んだ。
長兵衛は娘を吉原に預けて吉原を出るが、隅田川の吾妻橋で吉原の方を振り返って一句、

「闇の夜は吉原ばかり月夜かな」

この句の解釈をめぐるお話。

1つめは、
「闇の夜は、吉原ばかり月夜かな」と読めば、暗い夜でも吉原ばかりは不夜城の明るさよ。
そして、
「闇の夜は吉原ばかり、月夜かな」と読めば、吉原を支配するのは夜の闇であるなあ。

詠んだのは、榎本其角(えのもときかく)、芭蕉の高弟である。

先生は、落語家に、この話を誰に聞いたかと問われ、いつかの酒の席と答える。

対談は、お開きとなり、美希は、泡坂妻夫先生の「なんとか山訪雪図」に、この吉原の句の解釈が載っていたというので、その本を買って、中野の実家へGO!(なんとかは、木へんに花)

いろんな人の解釈本、古典文学大系、歌舞伎、大津絵、江戸小唄など、中野のお父さんが、どう解釈すればいいかを教えてくれる。

冬の走者

作家の塩谷一刀先生が、去年の夏、ランニングに目覚めたらしい。
「マラソンとは何か。最も誠実な友だ。つきあうのに、経験も、お金も、運動神経もいらない。やればやっただけ、結果が出る」

塩谷先生に言われて編集部からも何人か参加することになり、美希も参加することになったのが、北関東で行われる市民ハーフマラソンであった。

それも終わり、年末は中野の実家だ。
箱根駅伝の話題になったときに、美希が参加したハーフマラソンの話をした。
泊めてもらった編集長のお姉さんから電話で、弟(編集長)はちゃんと走っていたか?という不思議な問いかけだったことを話すと、中野のお父さんは、うれしそうな表情になった。

なるほど。編集長がちゃんとハーフマラソンを走ったのかどうかという謎を、中野のお父さんが推理する!

謎の献本

会社の机が新しくなるという。一時引っ越しのため荷物をまとめる。

引き出しに入れてあったはずの、作家の国岡先生からもらったサイン本が無い!
友人が言う、誰かが古書店などに売ったら大変なことになるねえ。美希は震えた。

美希と先輩二人の三人でランチ。誤植や絵の向きの間違えの話になる。なかなか奥深い話なので、それを編集者の研修で使えそうだ考えるところは何ともたくましいと思う。転んでもただは起きぬとはこのことか。

そして、心優しき先輩から、献本のなぞを解く週末の宿題が出された。
考えた解答が合ってるか不安な美希は、中野のお父さんを頼る。いいなあ、頼られて。私なんぞは馬Xに・・・。

さて、その宿題とは、尾崎一雄が志賀直哉に書いた献本の文言ネタだ。
「なぜ、書いた本人に献本しているように見えるサインが書いてあるのか?」

中野のお父さんが言う。
「志賀直哉の最初の短編集の『留女』であるが、普通は中の一作を題にする。だけど、この本は変わってる。『留女』という短編は入っていない」

そういえば、そんな短編読んだことがある気がした。不思議に思った記憶がある。
ちょっと、それは置いといて・・・。

ここからは、話が込み入っていて、要約を放棄します。m(_ _)m
結局、中野のお父さんが、この献本の謎と無くなった国岡先生のサイン本の謎を解いてくれるのである!古本好きの人なら知りたい内容だ。

茶の痕跡

雑誌の定期購読者は、出版社にとって非常にありがたい存在である。
ちょうど、定期購読御礼の品は何がいいかと考えていて、貴重なお話を届けて頂いた茨城の高齢の亀山さんを取材することになった。

取材で、昔の「円本」という定期購読本の話になり、郵便局勤めだった亀山さんは、その本を配達していて、殺人事件に遭遇したという。

隣村にそれぞれ住むAさんとBさん、ともに「円本」の読者で、交流があった。
ある日、Bさん宅に招かれたAさんがお茶をこぼして「円本」を汚してしまった。
そのことで口論となり、取っ組み合いとなり、Bさんが縁石に頭を強打して死亡したらしい。

本好きの人は、きれいな状態の本を所有したいのだ。本の取り換えを要求してくる読者の中には、本の造りも知らずに落丁だと言ってくる方は多いらしい。4ページだけ落丁なんて本の造り上、有り得ないそうだ。詳しい説明は割愛します。

そして、中野のお父さんは、この事件の真相?を語ったのである。え、なんで分かるの?

そういえば、図書館で借りたこの本、裏表紙にこんな紙が貼ってあった。
「この本は汚れている部分があります」・・・。
図書館の人は本好きではないのかしら。交換しないの?

数の魔術

後輩の虎谷紫苑ちゃん。女性誌部門に配属されて大変身したらしい。
宝くじに関する記事を載せて好評。三十年、宝くじを買い続けコレクションしているおばさんの記事。
なるほど、「はずれ」た宝くじでも、デザインに注目すればコレクションしておく価値はあるらしい。
しかも三十年分のコレクションだとしたら、大きな価値があるかも知れない。

その記事によれば、宝くじが発売された当時の世相と図版の組み合わせが面白いそうだ。
はなしは、美希の日常に変わる。
美希が土日に指導している中学のバスケ部が躍進して地区大会の決勝戦まで進んでいた。

「中学のバスケットボールでは、選手の背番号に、1,2,3がない。審判が指を立てて数字を示したとき、得点をさしているのか、選手をさしているのか、紛らわしいからだ。」とのこと。
へぇー、また勉強になった。高校、大学、社会人、プロはどうなんだろう、という疑問が沸き起こるが、ここはこのまま読み進めよう。

話はまた宝くじに戻る。
後輩の虎谷紫苑ちゃんが落ち込んでいるので、理由を聞くと記事にした宝くじおばさんが襲われたという。どこで素性がばれたのか。

その話を、中野のお父さんにすると、その強盗事件の謎が解けた。
解けたというか、想像力だ。ヒントは、「グループ買い」

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書籍情報

・形式 単行本
・出版社 株式会社 文藝春秋
・ページ数 288頁
・著者 北村薫
・発行 2015年9月15日

著者情報

1949年、埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。高校で教鞭を執りながら執筆を開始。89年『空飛ぶ馬』でデビュー。91年『夜の蟬』で日本推理作家協会賞、2006年『ニッポン硬貨の謎』で本格ミステリ大賞(評論・研究部門)、09年『鷺と雪』で直木賞、23年『水本の小説』で泉鏡花文学賞を受賞。〈円紫さんと私〉シリーズ、〈覆面作家〉シリーズ、〈時と人〉三部作、〈ベッキーさん〉シリーズ、〈いとま申して〉三部作、『飲めば都』『雪月花謎解き私小説』など著書多数。アンソロジーやエッセイ、評論にも腕をふるう「本の達人」としても知られる。(内容はこの書籍に掲載されていたものです)


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