タイトルの意味が分かるまで、結局最後まで掛かってしまった。
探偵物ドラマの犯人推理も、いつも妻に先を越されるので、しょうがない。
もくじが五つあるなと思っていたら、五編の独立したストーリーだ。
第一話を読み終えたところで気付く。
なーんだ短編集だったのか。じゃなんで「眠れない夜は体を脱いで」が無いんだ?
そう、だからタイトルの意味が分かるまで、結局最後まで掛かってしまったと。
読み終えたら、じわーっと全体構成が見えてきて、気持ちいい。
私が社会人になったころに生まれた人が、こんな小説書くんですねぇ。面白い。
小鳥の爪先
見た目がいいだけで、取り柄のない男・和海(かずみ)が主人公
彼女からは、緊張するとか、何を考えているか分からないという理由で別れを告げられる。
この主人公は高校生で、梓という彼女がいる。
家では、文鳥のましろを飼っていて、母と姉の友紀がいる。
父がいないとは書いてない…
高校の図書館のゆかり先生を好きになるも、イケメンなのに相手にしてもらえないが...
あざが薄れるころ
合気道 真知子五十代、瀬尾くん大学生、桝岡さん五十代
真知子の母は昨年喜寿で、夜中に起き出す
真知子の妹が多恵子で、その子が沙耶
なんとなく女という性になじめず、それを楽しめない。
合気道の稽古の様子を読んでいると、柔道並みに大変そうだと感じる。
親子ほど違う瀬尾君と組み合う真知子は、手にできた稽古でのあざを気にしている。
技の合間にきらりと光る瀬尾の目にはペアに対する信頼と仲間意識がにじんでおり、真知子は恋とも愛とも違う充実感で体が痺れるのを感じた。
欲しいもの、これさえあればいい、他の人が持っているものはあったらほしいけど、なくてもまあいい、というものが分かったから、幸せになれたのかもしれない。P98
おや、いつの間にか、50代独身で母の世話をしている人が、幸せになっている・・・
マリアを愛する
香葉子がスマホで海辺を歩くマリアの動画を見ているところから始まる。
一話目も、二話目もネットでの「手の写真の投稿」の話が出てきたが、まさかねと思いつつ読んでいくと・・・
砂浜で遊ぶマリアがこちらへ手をのばし、がめんの外から骨っぽい男の手を引き出している。 ~中略~ けれど香葉子はきれいな楕円に整えられた爪の形で、それが基裕の手だと分かってしまう。P103-104
やっぱり、手だ!
表示される検索結果はことごとく元カノという存在の大きさを突きつけ、香葉子の心を気持ちよく切り裂いていった。
この物語の象徴的な文章は、読み手の心を打つ。香葉子さんは大丈夫だろうか。
しかし、この物語は、そうは単純な展開とはならなかった。
マリアの死・・・
香葉子にだけ見える・・・
撮影のときのほんとうの状況・・・
その撮影開始シーンで終わる。
われ、すこし涙ぐむ
鮮やかな熱病
価値観の変化に、中高年世代は着いて行けていないのだろう。
経験を積み知恵を蓄え、礼節を重んじる年齢になれば、どうしてもそうではない者たちの杜撰(ずさん)さや愚かさが目につくようになる。
立派に成功した友人が、もう引退して専業主婦になると言ったときに言ってしまう
そんな馬鹿げた思いつき、はしかみたいなものだ! いい加減にしろよ、お前みたいになりたくてもなれない奴が、どれだけいると思っている!
どんな人生がいいかは、人それぞれ。地方銀行の都内支店長までになった主人公の本藤のこの意見は、時代遅れだ。が、気持は分かる。
結局お父さんはさ、私やお母さんのことを見下しているんだよ。対等だなんて思ってないし、いつも夫婦とか家族とか、そんな風に一くくりにして自分にくっつけて話すし、お父さんがかわいいと思うことしかやらせないの。なんか、ほんと、気持悪い。お母さんに同情する。
とまで言われてしまう。
そして、ついにというか、またまた手の話が出てきた。
私は興味ないが、人の手を見るサイトがほんとうにあるような気がしてきた。
本藤は、ここで主婦らの本音に遭遇する。
そして、結婚を勧めたが、まだ興味がないという部下の女子行員に言われてしまう。
「・・・それは、きっと違うと思います」
「男の人が要らないんじゃなくて……男女という役割を脱いで、ただの対等な大人同士として、尊敬しあえる関係を作りたいんだと思います。少なくとも、私はそうです。」
本藤は、前出の友人が、赤ん坊をあやしていてSOSを送ってきたことから、赤ちゃんをあやす機会をもった。
そして、友人の話を聞くうちに、徐々に自分の育ち方を思い返し、少し考え方が変わったというか、緩んでいった。
突然、悪趣味な帽子を作り出した妻を品がないと怒っていた本藤であったが、その鮮やかな色使いで、学生時代になりたかった生き物の研究者のことを思い出した。
そして、大型爬虫類販売店で、その若い女子行員とばったり会ってしまう。
これは、じわりとくるハッピーエンドでしょうか。
真夜中のストーリー
またしても「手」です! デートかな、と思っていると、
突然、ネット上の人間関係、アバターの登場!
しかも、男の幸鷹は、月子という女の子になりすましている。
まったく、なんちゅう設定や、おっちゃんついて行けません。
でも、エスコートのうまい昴くんから、上手なエスコートの仕方を学んでいるようで、バーチャルな世界でも学べることがあるのには驚いたが、相手も男じゃなくて実体は女かもしれないなあと考える。
さて、現実に会ってくれないかと言われて固まる月子。
月子こと幸鷹は、どうする。。。
彼は、車の販売店で働いているようだ。
さて、待ち合わせ場所が見えるカフェの窓際で見極める作戦だが、相手もそのカフェの隣の席で同じことを考えていたらどうするんや!と読者のわたしは力が入る。
そうでしょう。。。作者は裏切らない。
思いもよらぬ邂逅と申し出と、入院した母の期待(孫が見たい)。
衰えていく母親の期待を裏切り続ける覚悟もない。それは恐ろしい罪だ、と意識の底から警鐘が鳴る。
誰しもの人生も、そんなところがあるのではないだろうか。
わたしも親や親せきの期待に応えようと、ずいぶんと無理や我慢もしてきたと思っているが、だからと言って、自分の子にそれを押し付けるなんてできはしない。
実体の月子と昴のやりとりなどの描写を読んでいくと、幸鷹とは逆で、わたしは無意識に女性が好みそうなサイトは見ないようにしていたことに気が付いた。
彼がアバターで女子を演じているうちに、女子のファッションや化粧のサイトも見るようになり、勉強になったという話は、いまさら、この年ながら開眼させられるものがあった。やはり読書こそ昔からあるバーチャルで面白い世界であると思う。
また、なかなかネット掲示板でスレッドを立てる勇気は無いと思う一方で、ツイッターでつぶやくのと同じだろうとも思う。
そんなことを思って読んでいくと、17歳の月子が指を見せてくれというスレッドを立てるのである。
あれっ? それって、全編に出で来る話の子!? あんただったのか!
ん~、なかなか凝ったつくりですな。
でも、スレッドの約束、うまいこと守れましたね。