はじめに
先週紹介した「空中ブランコ」の後ろの宣伝を見て「コレ」を読んでみたいと思ったので、さっそくネットから予約した。
いつものことだが、先週借りた本を返却しても、「予約本がございますね本日お借りになられますか?」とは聞かないのだ。
サービスが悪いなあと思いながら、「それと、予約した本をお願いします。」
とこちららから言って、図書館カードを出すと、ちゃんと対応はしてくれるので、きっとシステムがイケていないんだろうと思う。
内容と感想
螺旋階段のアリス
いかにも迷宮に迷い込みそうなタイトルだが、なんだ、と思うような理由。
タイトルの決め方はいろいろなので、まあいい。
さて、肝心の内容であるが、「経験の無い私立探偵の物語」のようだ。
そして、アリスのような安梨沙が事務所外の螺旋階段から登場する。
この子が主役か。
ついに最初の依頼者が登場する。五十代の女性。外出着を着たごく普通の婦人のようだ。
最近亡くなったご主人が持っていた貸金庫の鍵を探してほしいと。
ご夫人が散々探して見つからないものが、果たして見つかるのだろうか。
見つかった。どこにあったのか。夫人の思い込みと、ご主人の愛を知ることになり、こころ温まる。
探偵事務所を開いて間もない仁木順平は、安梨沙の活躍で最初の仕事を無事こなし、彼女を助手として雇うことになった。
裏窓のアリス
次の依頼人は美人妻。夫の浮気調査、ではなくて、自分の浮気してない調査依頼だった。
ここで、安梨沙の年齢と素性が明らかになる。(十七八に見えるが、二十歳の人妻。ほんとうかは怪しいが。)
さて、ご夫人依頼の調査が終わるころ、こんどは旦那が調査依頼に来た。
そして、入れ替わりに、ご婦人が調査結果と探偵料金の支払いにやって来た。
ここで、仁木は、旦那から調査依頼があったことをご婦人に話す。
夫人自身のために撮った「浮気してない」証拠写真が、自分の不倫を証明することになるとは。。。
中庭のアリス
三人目の依頼人は、髪を紫に染めた身なりのきちんとした老婦人である。
彼女の邸宅に呼ばれて、仁木探偵は落ち着かない。
さて、依頼内容は、いなくなった飼い犬の雌のコリー犬の捜索である。
家政婦や料理人の話ではそんな犬はいないと言う。
困った仁木探偵は、遠方にいる老婦人の娘に話しをきくと、コリー犬はいたと言う。
はたして、どういうことなのか。この家には永遠が、すました顔で存在している。
老婦人は、現実にはあり得ない不思議の国の住人。
自分が何もしなくても、ものは勝ってに補充されて何不自由なく暮らしてきたのだ。
仁木探偵は、きっと、出入りの業者が関係しているに違いないと考えた。
老婦人から聞いた話の中に、使用人から聞いた業者のリストには無い人物を発見した!
この結末は動物愛護かな。どう思います?
地下室のアリス
四人目の依頼者は、元いた会社の地下駐車場の脇の事務所の山端さんである。
山端さんが言うには、地下倉庫のさらに奥にある書庫の電話が鳴るらしい。
仁木探偵は、倉庫の鍵の貸し出し台帳から地下倉庫に頻繁に出入りしている人間に気づく。
戸壁(とかべ)さんとその部下の佐藤さんだ。
佐藤さんは一度台車に大きな段ボールを載せて書庫にやってきて置いていった。
そしてある日、仁木がひとりで、倉庫で電話が鳴るのを待っていると、やってきたのは上司の方の戸壁さんだった。
戸壁は社内秘の数字に触れることが出来る課長職で、頻繁に部下の佐藤さんに書庫の書類の出し入れを指示している。
今日は何しに来たのか聞いてみた。戸壁は「しょ、書類を取りに来たに決まっているだろう」と、おどおどしている。
カマをかけたら、すぐにゲロしそうだ。
あっ、ゲロった。あっさり。
電話の件との関係は。。。!?
誰にでも、侵してほしくない領域が存在するのだ。
最上階のアリス
五人目の依頼。仁木探偵と安梨沙の二人は、二十五階建てマンションの最上階の真栄田さんの部屋で待たされていた。
仁木を呼び出したのは大学の先輩の真栄田さん。
夫人の淑子(よしこ)さんは、子供のようにひとりでは何もできない夫の真栄田が心配でならない。
すべてにおいて、彼女が夫の生活を支えていた。
真栄田さんからの依頼内容は、最近奥さんが真栄田さんにちょくちょく用事を言いつけ自宅から遠ざけるので、どういうわけか調べてほしい、というもの。
しばらく調査して、真栄田がペースメーカーを抱えている身であることが分かった。
そして、夫人が真栄田におつかいを頼んだ経路には大きな電波塔があることも分かって慄然が走る。
そんなところに近づけば、ペースメーカーが停止してもおかしくない。偶然を装った殺人計画か!
このあとの展開は予想外。夫人の気持ちは実はあたたかい、のか。
子供部屋のアリス
六人目の依頼者。
それは、仁木の妻であるシナリオライターの三田村茉莉花が紹介したという青山産婦人科の三十過ぎの冴えない中年男であった。
そしてその依頼とは、ひとりの赤ちゃんの面倒をみてほしいというものだった。
断ろうとした仁木だったが、妻の紹介と知ったからには断れなかった。
仁木と安梨沙は、病院の三階で赤ん坊の世話をすることになった。
絶対に階下には来ないようにと言われていた。
赤ん坊の爪がすぐに伸びるので不思議に思った安梨沙は、禁を破って、患者に変装して一階から侵入した。
入院している妊婦が四人、赤ちゃんも四人。
三階の赤ん坊を入れると人数が合わない。
今世話をしている子は誰の子か? まさか誘拐???
秘められた産婦人科医のラブストーリーが展開する。
アリスのいない部屋
鞠子(まりこ・本名)は、仁木の妻だ。ペンネームは三田村茉莉花。
彼女の仕事は順調で、実際よりも十歳は若く見える。
そんな彼女に、仁木は言った。「安梨沙がいなくなった。。。」
事務所に安梨沙の父と名乗る男が訪ねてきた。「安梨沙はどこだ。」
てっきり勘違いされているようだ。安梨沙の父と名乗る男は、仁木と安梨沙の狂言誘拐だと考えているようだ。
仁木自身も心配になり、ついに調査を開始する。
と、妻に話して、ここから妻が話す内容にびっくりするのである。
これも、一流のシナリオライターの三田村茉莉花が描いたシナリオか。
仁木も鞠子の手のひらのうえでグルグル螺旋しているだけのようだ。
加納朋子さんのプロフィール
昭和41(1966)年、福岡県北九州市生まれ。文教大学女子短期大学部卒業後、化学メーカーに勤務。平成4年、「ななつのこ」で第3回鮎川哲也賞受賞。平成6年発表の短編「ガラスの麒麟」で、第48回日本推理作家協会賞(短編および連作短編集部門)受賞。平成7年に退社して作家専業となる(ネットの紹介文より)
〆