まえがき
ある平凡な男の正体は、裏の顔を持つものだった。彼の正体は家族に知られぬまま。そしてその息子と妻は、父のことをそれぞれまったく違う性格として捉えていた。必殺仕事人のような兜の生きた様を通して、家族の幸せとは何かということを考えさせられた。サスペンスとホームドラマが楽しめる作品である。
この本の備忘録として、あらすじと感想を残します。
伊坂幸太郎さんのプロフィール(本書の紹介文より)
1971年 千葉県県生まれ。いさか こうたろう
東北大学法学部卒業。
2000年「オーデュボンの祈り」で第5回新潮ミステリー俱楽部賞を受賞しデビュ-。
04年「アヒルと鴨のコインロッカー」で第25回吉川英治文学新人賞、
短編「死神の精度」で第57回日本推理作家協会賞、
08年「ゴールデンスランバー」で第21回山本周五郎賞、第5回本屋大賞を受賞。
著者の作品(本書の紹介文より)
グラスホッパー (角川文庫) [ 伊坂 幸太郎 ]
マリアビートル (角川文庫) [ 伊坂 幸太郎 ]
重力ピエロ [ 伊坂幸太郎 ]
砂漠 (実業之日本社文庫) [ 伊坂幸太郎 ]
アイネクライネナハトムジーク(上) [ 伊坂幸太郎 ]
アイネクライネナハトムジーク(下) [ 伊坂幸太郎 ]
キャプテンサンダーボルト 新装版 (新潮文庫nex(ネックス)) [ 伊坂 幸太郎 ]
火星に住むつもりかい? [ 伊坂幸太郎 ]
陽気なギャングは三つ数えろ [ 伊坂幸太郎 ]
サブマリン [ 伊坂 幸太郎 ] など多数。
あらすじと感想
AX
兜の家族は全部で三人で、兜はよく深夜に帰宅する。普段は文房具メーカー営業員。
同業者の殺し屋は、檸檬という。そいつの仕事仲間は蜜柑。ふざけた設定だ。
そして、妻と息子の克巳。
彼は、深夜に物音を立てずに小腹を満たすものを探し続け、漸くソーセージに行き着いた。
その殺しの組織の在り方が、面白い。医者と患者、そして薬局の三者がうまく役割分担をしている。
医者は殺しを依頼する。患者は医師から病状(ターゲット)の説明を受ける。必要なら薬(武器)を薬局で処方してもらうのだ。
なかなか良くできたシステムである。
そして、ある病状についての手術(殺人)の指示が下るが、その日は息子の進路相談の日である。
兜は、おいしい仕事をなんとか終えて、息子の学校に向かうが、そこで代用教員として赴任していた、手術(殺し)をしたばかりの男の仲間の女教師に正体がバレてしまう。ちょうど妻から電話が着信して、女との格闘中のぜえぜえ、はあはあという声が。。。強いけど、ちょっと詰めが甘いのか、間が悪いのか。
格闘を終えて(いろいろ省略、ここは読んでください。)、医師の診察のあと、兜は一流の証として、コンビニでソーセージを手にするのであった。
BEE
兜は、ある依頼を遂行するために、下見に来ていた。
そのあと、妻からの着信履歴に気づいて、昨晩、医者に言われた「あなたを手術しようとしている人間がいるようです」「スズメバチと呼ばれる同業者がいます。」という言葉を思い出す。
妻に電話をすると「大変なの! ハチが」と妻が叫ぶ。。。
そこから、家に帰った兜家では、駐車場のあしながバチの巣の駆除の話が展開される。殺し屋じゃないのか!ちょっとコメディタッチか。
兜は、凄腕の殺し屋なのに、家ではアホ丸出しである。これが面白いのだが、まるで喜劇を見ているようだ、というよりは独り相撲のようである。
もし、殺しの依頼とそれを阻止する依頼が別の殺し屋に来たら、殺し屋が別の殺し屋に狙われると言う、ややこしい状況になってしまう、はず。
このあとは、兜がスズメバチの巣と格闘する様を楽しんでください。
Crayon
こんどは、ボルダリングが話のネタらしい。ボルダリングでは、スタートとゴールの印のついたホールドは両手でつかむのがルールだそうだ。知らなかった。テレビでちゃんと見ておこう。
兜はボルダリングのジムで、松田という男と仲良くなる。そして子供同士が同じ高校で受験生と言う点まで同じことに親近感を持つのだった。
ある日、ボルダリングのあと、飲みに誘われて街に出た二人に、若い連中の肩がぶつかった。もちろん、殺しのプロである兜にとっては、たやすい相手であったが、正体を明かすわけにはいかない。
そして、ことの顛末は想定外のことになった。松田と通りがかった妊婦に通り魔が。
さあ、どうする!
兜はせっかく得た友達を失うのだろうか。
EXIT
百貨店のテナントの文具店の営業マンである兜と百貨店の警備員の奈野村が仲良くなるのは、自然の成り行きだったのだろう。
奈野村氏の息子さんは、よくない友人(それは友人ではないのでは?)にそそのかされて、あろうことか、夜の百貨店で万引きを企てていた。
兜は、奈野村から、その少年らの写真を撮っておいてほしいといわれ、深夜の警備に同行したのであるが、もちろん奈野村の息子には気付かれないよう、距離を空けて着いて行ったのであるが。。。
奈野村の息子が、トイレへいくふりをして、父親から離れ、不良たちの誘導に向かった現場を押さえた兜は、奈野村との約束を守らず、彼らをトイレまで追い詰めた。トイレの電気をつけると、なんとそこには男の死体があった。
恐怖に怯える少年たちを逃がした兜に、うしろから奈野村に声をかけられた。何をしているんです?その手には包丁が握られている。
このあと、二人には、組織の非常な仕打ちが待っていたのである。哀。。。
FINE
兜の息子は成長し、結婚して子供もいるようである。
そして、父を訪ねてきた田辺という若い二十代の男から、十年前にカツアゲされていて、兜に助けられたお礼を言いたいと言うのだった。
田辺から聞いた話から、息子は父の謎について考え始めた。
このあたりから、十年前、兜の身に起こったことが、十年前の兜の物語として描かれていく。
父の秘密を探る息子と、十年前の父・兜の話がいくつも交錯する。
ここからは、一機に読んだ、走るように!
非常な組織に対し、死後十年経って、仕事をしてみせるプロの父に感動する。
そして最後まで読むと、涙が出てきた。。。家族の幸せとはなんだろう。
作品の背景
AXアックス、BEE、Crayon、EXIT、FINEとつづくが、どいういう意味だろうか。
検索すると、「アックス (axe, ax, acs) は、日本語で 斧 のこと。」と出た。
「蟷螂の斧」という言葉が、父と子の会話に出てくる。父は妻に頭が上がらぬようで、「カマキリが手の斧を振り上げている姿を思い浮かべてみろ。勇ましいけれど。しょせんはカマキリだ。弱いにもかかわらず、必死に立ち向かう姿を、蟷螂の斧という。」と恐妻家?の父が語っている。
この言葉は、わたしにはピンと来ない。なぜなら私の中では、カマキリは強い昆虫のイメージがあったからだ。こんなに世間のイメージとズレていたことは、小さなショックである。
BEE、Crayonは、家族の平和な物語であり、タイトルのままのエピソードである。
EXITは、組織を抜け出したいというところから来ているのかと思い、FINEはなんだろう?謎が解けてスッキリしたからだろうか。元気だせよ・大丈夫かな?まさか、罰金ではないと思うが。。。
主な登場人物紹介
兜、息子、妻、兜の母、医師、多くの患者、ほか
〆