はじめに
書評かなにかで読んで、面白そうだから読んでみた。調べると、テレビアニメ化されていたり、舞台で上演されていたりすることが分かった。さっそくPrimeVodeoで鑑賞もした。小説の世界で私が感じたエンターテインメントなテイストがぴったりの音楽とキャストで演じられていて、とても面白い。文庫本を読んでから見るといいと思う。
内容をちょっとだけ紹介
五つの短編である。
伊良部一郎はどうやって難題を抱えた患者たちを幸せに導くのか。そこがこの小説の面白いところである。
その起承転結の起承あたりまでの状況について紹介しよう。
空中ブランコ
山下公平は、新日本サーカス団生え抜きのフライヤーだ。だが最近空中ブランコでの失敗が多く、相方のせいだと思うように。
団長に精神科の受診をすすめられた。
近くにあった伊良部総合病院へ。医学博士・伊良部一郎はデブだった。
公平がサーカス団員だと知ると、伊良部は病院そっちのけで、ヒョウ柄のホットパンツ姿のナースを連れてサーカス団にやってきた。
あろうことか、空中ブランコをやりたいという。止める間もなく台に上がってしまった。
100キロ超の素人ができるはずもなく、失敗するが素人にしては恐怖心がなく、他の団員が感心するほどだ。
伊良部先生は公平にビタミン注射をするために、毎日往診に来てはサーカスの練習に混じるのだ。
一方、公平は昔気質で、だんだんと若い団員からはうとまれていると感じていた。
公平の猜疑心はピークに達し、練習のビデオを撮影して相方の意地悪を証明しようとする。
ハリネズミ
紀尾井一家の若頭の猪野誠司三十二歳と内縁の妻和美三十四歳。尖端恐怖症らしい。
内縁の妻に言われて、伊良部総合病院へ。医学博士・伊良部一郎はデブだった。
そして注射好きだ。尖端恐怖症のやくざを、その巨漢で押さえつけて、ホットパンツの看護婦マユミがブスっと注射を打つ!
猪野は気絶しそうだ。また明日来てねと伊良部に言われて逃げるように病院を出るのだった。
そんな猪野が親分から呼ばれて、血判状を作るから、おまえも押せと言われる。
まずい、血判状ということは、尖ったナイフで指に切れ目を入れなくてはならない。気絶ものだ!
ワラにもすがる思いで、猪野は伊良部総合病院を訪ねる。伊良部先生の突拍子もないアイデアが窮地を救う。
ほっとしたのも束の間、内縁の妻がよその組のシマに店を出そうとして、揉め事になった。
猪野は話し合いの席へ伊良部先生に同行を依頼する。
義父のズラ
麻布学院大学医学部の同窓会。池山達郎の義父である野村英介が学部長になり盛大に行われた。
どうやら達郎には変な性癖があるらしい。
会場に並んだきれいなグラスを壊したい衝動や義父のカツラを剥がしたい衝動が襲ってくる破壊衝動だ。
そして、週末に妻の実家へ親子三人で食事に行き、義父がワインを注ごうとしたとき、左手が義父の頭に伸びた・・・!
達郎は伊良部の病院を訪れて、診察を依頼すると、「要するに、不謹慎なことがしたくなるんでしょ。」 あたりだ!
ついに観念した達郎は、義父のカツラを取りたくなる衝動をいたずら好きの伊良部に話してしまった。
ホットコーナー
今度の患者は、プロ野球選手の坂東真一。プロ入り10年目のベテラン三塁手が、一塁へ送球できなくなった。
坂東は二軍で調整することになった。だが、一塁への暴投は治らない。
同僚に言われて、精神科を受診することにし、伊良部総合病院を訪れた。
伊良部一郎は、早々とイップスだと診断した以外はマイペースで、注射を打つ。
坂東がプロ野球選手だと知ると、キャッチボールに誘った。
二軍での練習期間に、新人がオープン戦でどんどん成果を上げていく。坂東は焦った。
選手会の食事会があり、銀座への二次会へ繰り出した。ルーキーの新人が飲み過ぎた。
二次会の帰りにチンピラに絡まれているのを見かけた坂東は、そのまま伊良部の車で帰ろうとする。
女流作家
作家の星山愛子は、次回作の件で編集者の荒井と意見が合わず、いらついている。
登場人物の設定が、過去作とダブっていないか心配なのだ。何度も自分の作品を読み返してメモを取った。
そして、心因性嘔吐症の再発で、伊良部総合病院へ。
二回目に伊良部総合病院へ行ったときに、伊良部が書いたという小説を渡され、出版社へつないでくれと頼まれた。
なんという、ずうずうしい男かと思いながら、めんどうなので受け取ってしまった。
登場人物についての懸念は、強迫症と診断された。
治療法としては、腹にあるモノを吐き出せばいいらしい。
もう書けないと観念して、穴を埋めるために若手作家の麗奈との対談を了承した。
いざ、対談が始まると麗奈の言うことがいちいち気に障り、ついにディナーのときに嘔吐症がテーブルで炸裂した。
奥田英朗さんのプロフィール
1959(昭和34)年、岐阜県生まれ。プランナー、コピーライター、構成作家を経て、作家に。2002年に『邪魔』で第4回大藪春彦賞、04年に『空中ブランコ』で第131回直木賞、07年に『家日和』で第20回柴田錬三郎賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
〆