内容紹介
2017年10月30日 第一刷発行
第一話 TKGホワイトオムライス
サトジがマヨとウフに出会う。ウフには離婚した暴力パパのトラウマが残っている。
サトジがウフの誕生日に作ったのは特別な卵かけごはんだ・・・
第二話 他人の親子丼
他人のサトジが作る親子丼の味は・・・
サトジの勤務先の有栖川料理研究所で開発した「絶品親子丼」の味は・・・
第三話 奇跡のティラミス
マヨのおばあちゃんの想いでのフルーツのティラミスとは・・・
第四話 エッグマンの卵焼き
いじめっこにウフが持って行った特大卵焼きの効果は・・・
第五話 二人でわけあうエッグベネディクト
サトジが働く有栖川料理研究所では、イタリアンレストランの三周年記念商品開発の会議が開かれ、サトジが提案したコンビニやレストランのものとはちがう「エッグベネディクト」が採用された。
- エッグベネディクト(英語: Eggs Benedict)
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ニューヨーク発祥の料理で、イングリッシュ・マフィンの半分に、ハム、ベーコンまたはサーモン等や、ポーチドエッグ、オランデーズソースを乗せて作る料理である。
- ポーチドエッグ
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卵白が半凝固、卵黄が半熟になるように調理した卵料理。
- オランデーズソース
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オランデーズソースのはじまりは、19世紀頃にフランスのノルマンディー地方で誕生した卵黄バターソースだと言われている。のちに第一次世界大戦の食料難によってバターをオランダから輸入するようになり、フランス語で「オランダ風のソース=オランデーズソース」と呼ばれるようになったそうだ。
居酒屋「ゆるり」で、店主から頼まれ、エッグマンはエッグベネディクトをつくり、病院から外出許可をもらってやってきた花田老人に振舞った。
花田老人とエッグベネディクトとの昔話を聞かせてもらい、皆涙するのであった。
そして、その話は、有栖川料理研究所で開発していたエッグベネディクトに添えられるストーリーとなった。
第六話 タマゴサンドの差し入れ
「ゆるり」の店主のヒミツが明かされる。
常連だって、店主の人生やフルネームは知らないことが多い。
店主のピンチをサトジとマヨは救えるのか・・・
第七話 サトジの涙
店主の娘さんとすれ違う店主の人生に、サトジが涙を流す。
最終話 ウフとマヨに捧げる
ついに、サトジはマヨにプロポーズする。
居酒屋「ゆるり」でサトジが作ったのは、・・・
拙評・感想
この物語では、マヨとウフの二人の離婚した親子が、背が高くて無口で、居酒屋の常連だったサトジと出会う。サトジは離婚前の家族を、この行きつけの居酒屋「ゆるり」で見ていて、マヨに心を奪われていたのだ。粗暴だったマヨの夫とは、ついに別れ、ようやくサトジに出番が回ってきた。その間十二年!
サトジは、元コックで卵料理が得意。いつのまにか居酒屋の厨房でその卵料理を常連客たちに振る舞い、いまではエッグマンと呼ばれている。
(わたしは、エッグマンと聞くと、湯川専務の名ゲーム機・ドリームキャストのゲーム「ソニックシリーズ」に出てくる、悪の天才科学者、ドクター・エッグマンを思い出してしまうのだが、その印象を必死で振り払いながら、この小説を読んだ。そうか、サトジは天才卵料理人・エッグマンだ!)
エッグマンは、各章ごとに卵料理をする。それで人の気持ちを癒すことで、問題を解決というか、ソフトランディングさせていくのだ。
さらには、調理手順とレシピが正確に描写されていて、読みながら作れるなあと思うほどである。(わたしにゃ、無理ですよ。) できるのは料理上手な辻さんだろう。
サトジが作る卵料理がいろんな人の人生に絡み合い、すこしずついい方向に物語が進むが、読者は黙々とまじめなサトジがもどかしいだろう。ことばではなく、その卵料理でひとの背中を押してくれるような、そしてファンになった常連がサトジの背中を押してあげたようなストーリーで、涙もろくなった私にとっては、やや甘い塩味のあるおいしい卵焼きを食べたような読後感でした。
辻仁成さんのプロフィール
東京生まれ。1989年「ピアニシモ」で第13回すばる文学賞を受賞し、作家デビュー。97年「海峡の光」で第116回芥川賞を受賞。99年「白仏」の仏語翻訳版でフェミナ賞の外国小説賞を受賞する。(本書の紹介文より)
著者の作品
主な著書に「醒めながら見る夢」「日付変更線 The Date Line」「父 Mon Pere」ほか多数。(本書の紹介文より)
〆