著者 宮内悠介 書評・感想
レビュー
展開の面白さ、見どころ
宇宙の金融屋が、宇宙の生物に融資をして、高額な利子を取り立てる。
金は無いという債務者に対し、ヤクザまがいの取り立てをしていくが、その金融屋のユーセフとその部下(これが主人公のぼく)の関係が非情で面白い。(パワハラを越えている)
金融会社も宇宙にまたがり、本社と支社間が何百光年離れているので、社内報は何百年も前の情報ということになるし、社長は交代している可能性もあるという話、などは、恒星をまたがる会社など今の科学のレベルでは運営できないことに気づく。「情報が光速を越えることはないんだ。」とユーセフも言っている。
融資をする相手は人間に限らず、アンドロイドや人工生命体、バクテリアまでも (話せるの?)
ぼくの体内でナノマシンのネットワークが意識を持ってしまい、ぼくを操ってピンチを切り抜けるところも面白い。
人間とアンドロイドの共存についての著者の考え方などもちりばめられていて、なるほどと思わせられるところもあり、人権みたいなものについても考えさせられます。
政治や金融に関するやや専門的?な理論は、理解しようとしても著者の考えなので、とりあえずそういうことにして読み進むといいです。
内容を少しだけ(五編とも最後のネタバレなし)
スペース金融道
人類が最初に移住に成功した太陽系外の星、通称・二番街、地球からは十七光年離れている。
ユーセフは、新星金融の取り立て屋。主人公はその部下の自分、名前は不明。
債務者は、人間のほかにアンドロイドや不思議な宇宙生物もいるようで、さながら「スターウォーズ」の世界である。
アンドロイドも人間と同じように暮らしており、このごろは精神病にかかるアンドロイドが増えたらしいと書いてあるが、「なんじゃ、そりゃ」と思う。
ユーゼフがぼくに債務者探査のプログラムを書けと指示する。
ひょっとしたら、ぼくはスーパプログラマーかも。片腕が機械だ。
アンドロイドが別のアンドロイドに乗り移って、元の体を破壊して他人に成りすます方法で債務から逃げる事件が多発しているというのは、面白い現象だ。
そして、その痕跡を辿ることで、五百年前の債務を取り立てようと発想するのも面白い。
つづく。
スペース地獄篇
ぼくはコンピュータネットワークの、「とある場所」へ送り込まれていた。
そこで、兎たちに債権者から逃げるための知恵(プログラム)を教えて現実の世界へ戻って来た。
今回の債務者は兎の姿をした人工生命らしい。
仮想世界の人工生命の債務者(クライアント)に対しても金を取りたてるらしい。
そんなことが可能なのか、という質問はできない。
クライアントは自己増殖して、前の体は自殺していくので、追いかけるのが大変らしい。
その兎の姿のクライアントを追い込むプログラムを書けと上司に言われて、2時間で製作した。
やはり、ぼくはスーパプログラマーのようだ。兎を追い込むプログラムは狐と命名された。
兎は狐から逃げながら、途中で過激派を生み出した。そして人類へのテロを開始した。
その後、なんだかわけのわからない話が続き、地獄の女王と話しているぼくは、女王からもらったIDでサーバへログインした。
だが、探していた兎たちがいない!
つづく。
スペース蜃気楼
ここはアデン港。
宇宙と地球をつなぐエレベーター。その中間の大気圏で爆発事故発生。
そのニュースを見て飛び出すユーゼフ。ぼくも後に続く。
取り立ての現場で、白衣を着た女性二人がやり合っている。ひとりは、リュセ。アデン大学工学部教授。通称アンドロイドの母。だから取り立ての現場でよく遭遇する。
そう、でも債権者に死なれたら回収できないので、はたから見ると助けているようにも見える。
ユーゼフ、ぼくとリュセは、債務者ルーシャスを救いに行ったが、第二の爆発が起きる。
つづく。
スペース珊瑚礁
場所は、セルジュ博物館の離れにある収蔵庫。
この収蔵庫の番は、アンドロイドのドネルだ。ユーゼフが収蔵庫にあった拷問具を見せると、ドネルは震え上がって支払いに応じた。
今日のノルマは8件。ここが1件目だ。
外に出ると、ブルーグリーンの珊瑚礁が見えた。
新星金融は、バクテリアだろうとエイリアンだろうと、返済さえしてくれるなら融資をする。そのかわり高い利子をいただきます、という方針だ。
ぼくは目が覚めると、ユーゼフから家を一軒買えるくらいの借金をしていた。
借りた時点で、返さない状況に追い込まれたことは理解した。
なぜ、借金をしたのか?
ハンバーガーを17個注文したあとで、精神科医を受診した。
一千万人に一人しかかからない「ミトコンドリア病」だった。
自分の身が、明日どうなっているが分からないという。
朝起きたら、身長10メートルということもあるらしい。
使い物にならなくなったぼくは、残されてユーゼフは1人で取り立てに行く。
すると、リュセとドネルが来た。
アンドロイドを創った教授のリュセは、ドネルから聞いた新規事業の提案と新たな融資の依頼で来たらしい。
ぼくは、自分の借金返済の足しにもなると考え、融資を許可した。
ユーセフが帰ってきて、TVを見ると事件が起きていた。
ドネルがアンドロイドの地位向上を訴えて博物館に立てこもったのだ。
つづく。
スペース決算期
アンドロイドのシリアルキラーが人や機械を問わず殺しまわっている。
当然、新星金融の債務者も殺され、借金を取りそこなう。
近く、二番街の大統領選が行われる。
ユーセフとぼくは、現大統領のゲベィエフから呼ばれた。
過去の事件で、現大統領とは知り合いなのだ。
ゲベィエフが再選されるためには、保守層の票を割る必要がありそうだ、ということで、ぼくがその役を担うゲベィエフの対抗馬として、「人間原理党」の党首となる計画が考えられた。
ぼくの名は、ケイジらしい。
そして、債権者のジャックを追うため、アンドロイドのエイダを経由し、暗黒網にダイブするよう言われたとき、頸動脈に注射器が・・・。
つづく。
著者プロフィール
宮内悠介 1979年、東京生まれ。92年までニューヨーク在住、早稲田大学第一文学部卒。 2010年、「盤上の夜」で第1回創元SF短編賞山田正紀賞を受賞しデビュー。 第一作品集『盤上の夜』で第147回直木賞候補、第33回日本SF大賞受賞。 第二作品集『ヨハネスブルクの天使たち』で第149回直木賞候補、第34回日本SF大賞受賞特別賞受賞。 他著に『エクソダス症候群』『彼女がエスパーだったころ』『アメリカ最後の事件』。 2013年、第6回(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞を受賞。(本書の情報より)
心に残る名言
「わたしたち新星金融は、多様なサービスを通じて人と経済をつなぎ、豊かな明るい未来の実現を目指します。期日を守ってニコニコ返済―」
「宇宙だろうと深海だろうと、核融合炉内だろうと零下190度の惑星だろうと取り立てる。それがうちのモットーだ。」
アンドロイド 新三原則
第一条 人格はスタンドアロンでなければならない(人格は複製・転写できない)
第二条 経験主義を重視しなければならない(ざっくり生きて行こう)
第三条 グローバルな外部ネットワークにアクセスしてはならない(ウェブへのアクセス禁止)
書籍・著者情報
・形式 単行本
・出版社 株式会社河出書房新社
・ページ数 292頁
・著者 宮内悠介
・発行 2016年8月30日
〆