あらすじ
Prolog 目撃者たち
神奈川県相女原市(あいめはらし)の西端にあるガソリンスタンド「はまぐち」は、レジャー施設「サン楽園」の閉鎖とともに、売り上げが落ちていた。幼馴染で電気屋の宮下と愚痴っていると、赤いマーチが給油に来た。
だが、様子が変だ。赤子を乗せた20代の美人は黒いトランクケースを積んでおり、来た道を何度も振り返って、誰かに追われているようにさえ見えた。
Chapter NATSUMI 1 もう疲れました
女性問題に詳しいジャーナリストの長月菜摘、恋人の丘咲も社会ジャーナリスト
菜摘は徹底して具体的な事例について具体的な解決を考えていくが、丘咲は抽象化することで普遍的真理に到達しようとする。
友人の麻衣亜の夫のツイッターを見ていた菜摘は、麻衣亜が家を出たことを知る。
待機児童問題で麻衣亜が働けず、結婚生活に限界が来たようだ。
お節介な菜摘は、麻衣亜を探すことにした。
麻衣亜が居ない麻衣亜の夫の薄井和夫がいる家にひとりで押しかけたが、けんもほろろに追い返された。
丘咲と菜摘は、麻衣亜が実家を嫌っていたことを思い出した。実家へは戻っていないだろう。
プロローグの女性は麻衣亜だろうか。ふたりは、自力で麻衣亜を探すことにした。
Chapter HITOMI 1 真実を追う警官
相女大野警察署の生活安全部地域課 山形瞳巡査と後輩の三村和子巡査は、麻衣亜の夫である薄井和夫から行方不明者届が出され、その調査をすることになった。
Interlude 目撃者たち
イラン系民族のアスガルは、渋谷にきて十年、脱法ハーブを売る。
女が近づいてきて、アレを売ってくれと言った。 命の保障はないが、それでもいいというから売ったが、その女はSNSで見つけた家出妻だった。
Chapter NATSUMI 2 誰にも頼れません
菜摘は麻衣亜の実家に電話で確認した。
やはり麻衣亜は実家には戻っていなかったし、母親の態度も諦観した感じの冷たさを感じた。
高校の友人の飯島秋帆は、渋谷で麻衣亜が鼻にピアスをした外国人の男と話していたという。
それから、東京に出てきている通泰にかけたが、知らないようだ。
さらに、小中学まで範囲を広げて、綾瀬美乃梨に電話すると、会って話したいと言う。
何かありそうなので、すぐ会うことにした。美乃梨は、麻衣亜は小中学校のときは、いじめられていたと言った。
麻衣亜は誰かにつけこまれても何も言えないから、失踪がほんとうなら何かそうせざるを得ない状況だと伝えたかったらしい。
美乃梨と別れて渋谷に向かい、ホスト風の男にアスガルのことを聞いて、居場所を聞き出した。菜摘はアスガルから麻衣亜に道案内をしただけだと言う。
Chapter HITOMI 2 不幸の匂いのする方へ
山形瞳巡査と後輩の三村和子巡査は、山林の中を捜査し始めた。
Interlude 目撃者たち
娘の紗枝を厳しく育てたあげく、死に追いやってしまった柴村は山登りに没頭していた。
今回は相女原の千道寺山を走破してきた。そして赤いマーチから若い女性と赤ん坊が降りてきてハイヒールで登山しそうだったので、思わず声を掛けた。
Chapter NATSUMI 3 悪いのはわたし
菜摘は麻衣亜の職場を訪ねて新菖ケ丘に来ていた。
オペレータ会社の女性のスーパーバイザーは、金髪の若い女性にお茶を入れさせてからすぐに仕事に戻らせた。恐れられているようだ。
そのスーパーバイザーはあらかじめ想定していた答えを回答したようだ。
麻衣亜についての特段の情報は無かった。だが、帰りのエレベータに女性が乗り込んできて麻衣亜について話があるという。岩田七生。麻衣亜が霧島部長とできていたと言う。
イシズ本社ビルは名古屋の栄、久屋大通沿いにあった。霧島部長を直撃し、麻衣亜との関係を聞き出すことはできたものの、関係は終わっており連絡もないようだった。
菜摘は、麻衣亜の夫、和夫の実家を訪ね、和夫の妻が失踪していることを知っているか確認に赴いた。和夫の母は知らなかったらしく血相を変えたので退散した。和夫は責められるだろう。
そのあと、オペレーションセンターで菜摘にお茶をだした林田という若い女性が会いたいと言ってきた。
Chapter HITOMI 3 その先にあるもの
山形瞳巡査は後輩の三村和子巡査を帰らせて、ひとりで山に分け入った。途中で初老の男に会い、麻衣亜と赤子が山に入っていったと言う。山形巡査は急いだ。
Chapter NATSUMI 4 帰る場所がないの
菜摘は代々木上原で林田というオペレーションセンターの女と会った。
そして、二人は不倫関係ではなくて、妊娠中の麻衣亜が霧島部長にレイプされ続けていたのだと話した。同僚はそれを不倫と勘違いしていたと言う。
麻衣亜は、恐怖を愛にすり替えて耐えていたのだろう。
考えもしなかった事実にショックを受けた。菜摘は丘咲と、和夫に会いに行く。
和夫は不倫された自分の方が被害者だと言った。
『ツバメの王子が、せめて(麻衣亜の人生の)最後に現れてくれたならば、・・・だが最後に現れたのは、さらに彼女を不幸にする霧島部長だった。』
そして夫の和夫が言ったという台詞は麻衣亜にとどめを差した。
「部長に可愛がってもらえよ。そしたら正社員にしてもらえるぞ」
Chapter HITOMI 4 名もなき円筒
山形巡査は、赤の日産マーチを発見。後部座席のスーツケースには「円筒形の物体」が見つかった。
Chapter NATSUMI 5 これは夢よ
麻衣亜の失踪から六日目、麻衣亜の実家の父、鈴宮隆二から電話あり。
菜摘は丘咲と麻衣亜の実家のある彼らの故郷に向かった。
教師だった隆二がセクハラの冤罪を着せられて、あちこちの学校を転々とし、麻衣亜もいじめ続けられたらしい。菜摘は隆二から麻衣亜が頼ったという東京の助産院を聞き出し、そこへ向かった。
だが、一足遅かった。麻衣亜は居なかった。
菜摘の自宅、丘咲がシャワーを浴びているとき、丘咲のスマホが鳴る。画面には、“まいあ“と表示されていた。
Chapter HITOMI 5 追跡者を阻むためには
山形巡査のあとに別のパトカーが近づき止まる。中から近くの交番警官が降りてきて、赤いマーチは盗難車だという。筒のようなものはGPSらしい。そのあとから三村巡査もパトカーで戻ってきた。そして驚くべき発言をした。「山形巡査、詳しい話は署でお聞かせ願えますか?」
Chapter NATSUMI 6 さよなら、わるい夢たち
ネタバレ非公開
Chapter HITOMI 6 どこまでもお逃げなさい
ネタバレ非公開
Chapter NATSUMI 7 夢のあと
ネタバレ非公開
Epilog 悪い夢がとけるとき
ネタバレ非公開
感想・評価(五段階)
全体 ☆☆☆
設定 ☆☆☆
長さ ☆☆
盛り上がり ☆☆☆
どんでん返し ☆☆☆
社会性 ☆☆☆
読みやすさ ☆☆☆☆☆
麻衣亜さんの過去が順に明らかになっていきますが、これといった困難もなく調査が進みます。
冤罪を着せられた親子の人生について描かれていますが、そこまでは深くえぐられてはいないかなという感想です。失踪のきっかけとなった待機児童問題ですが、それが原因で働けないから失踪したという設定は納得感がありません。
また、最後の方まで短い文章で山形巡査が捜査するシーンが続き、突然事件に関係してくる点や、麻衣亜が迎える結末はあっさりしていてやや物足りない感じがしました。菜摘と丘咲の関係が変化していくところも、まだ描き足りない気がします。麻衣亜がアスガルから買った命に係わるヤバイ薬はどこかで使ったのかな?いろいろな要素を詰め込もうとして、264ページでは足りなかったのではないでしょうか。
次の描写は、すきなところです。故郷の街をうまく表現しているなと思う。
『消極的で変化を嫌う街並み。表情は少なく、人の良いところはあるけれど、その下で変えなければならない価値観まで変わらずに保存されている街。菜摘は今も昔も、この街が好きで、そして嫌いだった。』 P202
書籍情報
・形式 単行本
・出版社 朝日新聞社
・ページ数 264頁
・著者 森晶麿
・発行 2018年2月28日
著者情報
1979年生まれ。2011年に第1回アガサ・クリスティー賞を受賞した『黒猫の遊歩あるいは美学講義』に始まる「黒猫シリーズ」(早川書房)のほか、「花酔いロジックシリーズ」(KADOKAWA)、『儀恋愛小説家』、『俗、儀恋愛小説家』(朝日新聞出版社)、『怪物率』(光文社)、『人魚姫の椅子』(早川書房)、『心中探偵、密約または闇夜の解釈』(幻冬舎文庫)など著書多数。(内容はこの書籍に掲載されていたものです)
〆