或るギリシア棺の謎
登場人物を把握して、犯罪が起こる背景を掴んでおこう。
今回は、P4に安堂家の家系図が記載されています。横書きにしました。
【安堂家家系図】
( )は配偶者、赤は故人。
安堂光深―安堂朱海
光矢:長男―(真利香)
拓矢:孫
夏摘:孫―(等)
滉二:次男―(翠)
塁:孫―(法子)
千理愛:ひ孫
(補足)
光深(みつふか):八十代
朱海(あけみ):八十三歳
光矢:五十九歳
真利香:ー
夏摘:刺殺された
等:交通事故死(青沼の孫)
拓矢:三十二歳犯歴があり服役中
滉二:五十七歳
翠(みどり):六十一歳
類:三十六歳、メガネ、安堂グループインダストリー社長
法子:三十六歳、元刑事、今は出張料理人
千理愛:十一歳
【主役】
・南美希風(みなみみきかぜ) 未婚 カメラマン、東京にある芸術大学OB
・エリザベス・キッドリッジ:アメリカの法医学者(検死官)、南美希風の心臓移植手術を成功させたロナルド・キッドリッジの娘、40代未婚
【そのほかの人々】
・紺藤刑事:巡査部長、三十半ば、法子の後輩
・鳴沢警部:高身長
・若月医師:亡くなった当主の妻、朱海さんの往診担当。個人病院の院長
・酒田チカ:住み込みの家政婦
・青沼誠一郎:朱海夫人の昔の男
あらすじ(導入部)
【プロローグ】
安堂朱海の葬儀に向う南とエリザベスの様子と安堂菜摘の葬儀のときの様子が描写されている。
【第一章 二枚が告げる】
難病の子ども達の支援を行うNPOを運営していた安堂朱海さんは、エリザベスの父の国際間移植ネットの推進団体が資金援助を受けていた縁で、今回の来日で面会する予定であったが、訃報が届き、会葬のため安堂家に向かうことになった。
安堂家の苗字のルーツについての説明がある。ルーツであるギリシア人夫婦の苗字であるアンドレウがルーツらしい。
また会社名「あすなサンドロス」は、古代ギリシアの時代、不敗とされる戦績で大帝国を築き上げたアレクアンドロス三世にちなんでいるとか。
「ブランド名をイスカと名付けたのは、アレクサンドロスのアラビア語読みがイスカンダルとなるため」だという。
ここまで、読んで、私と同輩の諸氏は、「イスカンダル」だの「古代」などと聞いたら当然「それは、宇宙戦艦ヤマトの設定ではないか!」と考えると思うのですが、ひょっとして「いまさら」でしょうか?(;^ω^)
さて、安堂家に到着した美希風とエリザベスは、安堂翠に導かれて、当主の安堂光深(みつふか)に紹介された。
そこへ割り込んできた紺藤刑事は、警視庁を揺るがすスキャンダルを解決した美希風とエリザベスの活躍を知っていた。
そして奥の間に通された二人は、翠さんから、発見された「脅迫状」の写真を見せられ、内容の意味について考察を始めた。そこには、今回の殺人は二人目であるとうような文言があり、一人目は、去年の八月に刺殺体で発見された安堂夏摘のことと考えられた。こちらの事件の犯人もまだ見つかっていない。
脅迫文に登場した、聖天主、聖勇毅、聖常生とは、祈祷文の中にある言葉らしい。
安堂家の複合企業の副社長であった夏摘は、数年前から行方不明となり、去年の八月に刺殺体で発見されたのである。
はなしを、安堂朱海さんの死に戻そう。棺には安堂家で大切にされていた筒のような品が左手の近くにあったという。どのような意味があるのか。ただ、それがあったということは、犯人は安堂家内部の者であると思われた。
【第二章 列棺の室の“船”】
美希風とエリザベスは、安堂朱海さんを入れる棺を“列棺の室”から取り出す様子を滉二氏らに確認した。ここでは、ほとんどの登場人物が、列棺の室に集まり、脅迫状が発見されたときの様子を語り合う。
すると、最年少の千理愛が、七夕の頃、亡くなった朱海おばあちゃんが、誰かに怒って大きな声を出していたという。セリフも覚えていた。それを聞いた大人たちは、それが夏摘さん殺人事件にも関係している叱責であろうと考えた。
そして、夏摘さんが殺害されたときの状況や拓矢の逮捕によるアリバイ成立などが語られた。
【第三章 不意の死角の陰】
つぎは、脅迫状を廊下に落とし得た者を特定する議論に入り、さまざまな意見が出たが、棺を運んだ光矢、滉二、塁の誰もが犯人になり得ることを、美希風が推理してみせた。
そして、監視カメラの映像を見直していると、1つの監視カメラが破壊される瞬間が映し出された。その監視カメラの周辺にあった植物に添える長いポールが破壊行為に使用されたでろうと推察された。
そのさなかに、光矢が語ったのは、母の奉仕活動に費やされていた莫大な資金は、母が死んだことによって引き上げられ、本業の資金へと戻されるであろうと。
まさに、それが今回の殺人の動機ではないか。(奉仕活動をよく思っていない者の犯行か。)
警察本体と鑑識がやってきて、捜査差押令状を持ってきて「安堂朱海は毒殺されていた」との知らせをもたらした。
【第四章 毒殺直後の夕べ】
この章は、朱海さんが、自殺か他殺かの議論が忙しい。
宗教のしきたりにより、自殺したひとは由緒正しい棺には入れないという制約があるらしい。
【第五章 生者も静かに眠る】
脅迫状を書いた人間と、遺書を偽造した人間は別人ではないのか?
美希風は、思考する。
安堂夏摘の殺人事件と今回も安堂朱海の毒殺事件は繋がっているのか?
【第六章 行方を絶つ前と後】
法子とエリザベスと美希風は、夏摘の当時の足取りをたどることにした。
県警鑑識では、脅迫状の裏面で発見されたロウソクの蠟(ろう)について、いつどこでどのように付着したものかの考察が行われていた。
念のため、ルミノール反応が出ないかと、試薬を吹き付けると、なんと、「ヒツギ」の文字だけが青白く浮かび上がったのである。
法子とエリザベスと美希風の会話は、亡くなった夏摘の夫で、交通事故死した等のことや刑務所にいる拓矢のことに及んだ。
【第七章 棺の前で・・・】
県警鑑識では、脅迫状から血痕が見つかったため、全員の血液を採取DNA鑑定されるという。
警察のアリバイ調査や継続的に朱海に毒を盛れるとしたら、という考察が続く。
朱海夫人のご遺体が警察から戻って葬儀が進行していく。
南は朱海夫人のあるモノに着目する。寸でのところで南は出棺を止めた。
そして、そのモノから、あるトリックを思いついき、仮説を論理的に証明してみせた。
【第八章 偽造遺言の告白】
母の死の真相が分かり、親族のひとりが興奮していた。
あと二つしかない由緒ある棺を自分の為にセーブできるからだ。
そんなところへ鳴沢警部(刑事課長)から連絡が入り、長野刑務所で服役中の拓矢が心臓発作で死んだという連絡が入った。
このとき、その親族はうかつにもこう言った「また、一つしか・・・」
その言葉を聞き逃す南ではなかった。
その親族のアリバイトリックも南が詳細に解き明かし、ついに投了した。
【第九章 脅迫状の告白】
昼食が終わり、集会ホールにいると、紺藤刑事がやってきて、脅迫状に付いていた血痕のDNA鑑定結果を知らせに来た。「誰のものとも一致しませんでした。」
またしても、事件は迷宮入りするかと思われた。
【最終章 大いなる不在】
夏摘の事件について考え続けていた南は、声を掛けてきた累にある調査を依頼した。
そして、鳴沢警部に、血痕が脅迫状についた件の推理をしてみせた。
美希風は、夏摘の事件の犯人も、今回の犯人と同じ立場であれば、犯行が成立するという仮説を立てて証明してみせたのである。そしてその犯人こそが脅迫状を書いたのだと。
【エピローグ】
事件が解決して、帰途についたハイヤーの中で、今回の事件を振り返る南とエリザベスであった。
柄刀一(つかとうはじめ)さんのプロフィール
1959年北海道生まれ。1994年、鮎川哲也編『本格推理3』に「密室の矢」が初掲載。1998年『3000年の密室』で長編デビュー。(本書の紹介文より)
著者の作品
近著に、『ifの迷宮』『密室キングダム』『密室の神話』『ミダスの河』『流星のソード』『ジョン・デイクスン・カーの最終定理』などがあり、今作は『或るエジプト十字架の謎』に続く“国名シリーズ”の第2作である。(本書の紹介文より)
〆