登場人物
花村家祖父:陸軍の名物男
花村家当主:花村商事社長、財界で華族と縁続き
花村英子(主人公:わたし):女学生、後期1年は15歳か。自宅は麹町
花村雅吉:主人公の兄、大学院生
お芳さん:花村家のお女中
桐原麗子:道子の姉、桐原侯爵家の長女
桐原勝久:道子の兄、桐原侯爵家の嫡子、陸軍参謀本部大尉
桐原道子:桐原侯爵家の末のお嬢様、瓜生財閥の跡取りとの婚約が整った。英子さまの友人
内堀晃二郎:百合江の祖父
内堀晃継:百合江の父、内堀銀行頭取
内堀百合江:内堀家のお嬢さん、英子の友人
海老塚:内堀家の執事
富田ツル:内堀家の雇い人
内堀洋一郎:東一郎の祖父、晃二郎とは兄弟
内堀東一郎:内堀ランプのお孫さん
内容紹介、背景
幻の橋
英子(えいこ)の友人の桐生道子さんが兄の勝久様から、謎の歌を預かってきた。
英子のおかかえ女性運転手の別宮みつ子さんに渡してほしいとのこと。
そして、内堀百合江さんからは恋の悩みを相談された。
今日、英子はふたりの友人からそれぞれ頼まれごとをされてしまったのだ。
そんな日もあるだろうとは思うも、百合江さんからの相談は重く、英子は即答できずに、ベッキー(別宮)さんに相談する。
ここでベッキーさんの教養があふれる。英子さまは、聞くに値する解決案を授かるのである。
そしてもうひとつ、道子さんから預かった謎の歌をベッキーさんに渡してみたが、素っ気ない態度である。
英子には分からない意味でも込められていたのか、英子の兄によれば、その歌で歌われているのは、荒熊と呼ばれる段倉荒雄という思想家らしい。
<荒熊の雄叫びばかり弥増さり だんだん暗くなる夜なりけり>
段倉氏に民主主義の自由思想を非難され、それを見事に言い負かした天才学者が居たと言う。だがその天才学者は段倉派の暴漢に殺害された事件があり、この歌は、世の中が暗くなると嘆いているようすを歌ったものらしいが、英子の兄は、出来が悪い落首だと言う。この暴漢の事件の話は、最終話の伏線となっている。
内堀百合江さんの方は、と言えば、遠い昔、百合江さんの祖父の内堀晃二郎さんとその兄の内堀洋一郎さんの間でいさかいがあり、両家は今も犬猿の仲だという。
洋一郎が新聞に、晃二郎の死亡広告を出したといううわさだ。
その孫同士が恋仲になったとは、祖父らも思ってもいないだろう。
まるでロミオとジュリエットのような二人のうち、ジュリエットの百合江さんから相談を受けた英子は、ベッキーさんに相談する。
さて、孫娘に泣きつかれた晃二郎は、孫娘の恋の相手で兄洋一郎の孫の内堀東一郎に、自宅で開催される「堅いお話の会」に顔を出すことを認める。
洋一郎は喧嘩の仲直りの証として、絵画を東一郎に持たせた。そして講演するのは、段倉先生である。
受け取った執事の海老原がその絵画を会場に飾った。
中身を知らなかった東一郎は、内堀百合江の実家に飾られたその絵を見て愕然とする。軍人らも聴講に来る段倉先生のお話しの会の会場に、そんな破廉恥な浮世絵が飾ってあっては、仲直りどころではなくなるのである。
花村英子は、その聡明な頭脳で、真相に辿り着く。
英子さまは、ベッキーさんにヒントも貰わずに真相に辿り着いた。そして犯人に対しても優しい。大したものである。どのように解き明かしたかは、本書をぜひお読み頂きたい。
桐原侯爵の邸にて、段倉先生ともうひとり中国思想の大家の講演会が開催された。ふたりは子弟の関係。段倉先生が弟子である。
講演後、その会に呼ばれた英子に桐原勝久様から、二人の先生を送るため、運転手の別宮さんを貸してほしいと頼まれ、英子も同乗するならと承知した。
段倉先生は師匠とお車に乗り込まれた。別宮さんが運転し、英子様は助手席、後部座席には、老先生二人と勝久様が乗り込んだ。
酒も入った段倉先生は、運転手が女性と知ると、なんとも失礼な物言いが始まった。
「女なら、早く子供を作ることだ。そうしてこそ、お国のお役に立つ。小賢しく、ハンドルなど握ることはない。」
勝久様も、助け舟を出すでもなく、ベッキーさんに、「先生にきいてみることはないか」などと言う。別宮さんの博識を知らぬでもなかろうに。英子様は自分の運転手が見世物のように扱われ、いい気がしない。
だが、ベッキーさんは、しかたなく、ある本の言葉を語り、戦(いくさ)で戦わずにものごとが解決出来たら・・・と言い、その言葉の出典を段倉先生に尋ねてみると、師匠の前で平然と間違った回答をして、車を降りて行った。
段倉先生がお車を降りたあとの師匠と残る三人との会話がしゃれていて胸を打つ。
想夫恋(そうふれん)
清浦綾乃 公家華族 英子は大名華族に知り合いが多いので、綾乃とは話したことはない。
その彼女が、偶然自分も買った同じ本を読んでいたので、声を掛け親しくなった。
ところで、題名の件だが、平家物語の小督(こごう)のくだり、清盛から身を隠し、嵯峨野で彼女(小督)が琴で奏でていた曲が「想夫恋」というらしい。
ある日、綾乃さんが学校に姿を見せなくなる。清浦家も必死で隠しながら探している。
綾乃さんの居場所を突き止めるため、綾乃さんとお琴の若先生が交わした暗号めいた手紙を解読しなければならない。
できるのか。身分違いの二人の恋の行方は。
英子さまとベッキーさんが協力して、その暗号の解読を試みるが、若いふたりの行く道は険しいようだ。
英子さまとベッキーさんの行動力には驚かされる。ベッキーさんのような相棒がほしいものだ。
玻璃の天(はりのてん)
玻璃の天とは、ガラスの天井かなと思いながら読み始めた。
さて、話は銀座の資生堂パーラーのおいしいコロッケの話である。
金持ちは、銀座だの食事だの金を使うことばかり話しておるな。どうやって稼いでおるのか、聞きたいものじゃ。
兄妹で、そのパーラーで、コロッケを食べた。花村商事の次期社長の英子の兄は、隣の席の男二人の素性を妹に語って聞かせた。
二人のうちのひとりは、末黒野 貴明氏、財閥の大番頭の息子らしい。
その末黒野氏が、食事を終えて帰るとき、英子に向ってほほ笑んだ。もう英子さまは、どぎまぎ。
金持ちは、戦争の拡大を神に祈っているらしい。鉄鋼もセメントも稼ぎどころになるのである。彼らは人が死ぬ戦争を願っている。
場所と時が変わる。資生堂パーラー微笑んだ方の男、末黒野氏が今、ここ英子の邸にいる!
そのとき、末黒野 貴明氏とパーラーで向かい合っていた、白服にもじゃもじゃ頭の男も、ここ英子の邸にいる!
末黒野氏に、白服にもじゃもじゃ頭の男のことを聞いた。彼は、乾原剛造(かんばらごんぞう)といい、末黒野氏の友人と分かった。建築家で、梁や天井が好きだという。
英子は乾原氏が設計した「末黒野邸」の見学に行くことになった。
ベッキーさんが運転する車で、お供のお芳さんと共に末黒野邸へ向かった。
到着するとすぐに、英子は末黒野氏に、邸の屋上まで連れて行かれ、さらに一際高いところに通されて、きれいな雁のステンドグラスを発見する。
ところが、その一部に穴を見つけると、末黒野氏が、そのわけを話してくれた。
設計した乾原氏が、そのステンドグラスが気に入らず、鉄砲で打ち抜いたという。
晩餐会が始まった。段熊先生の講演があり、そのあと、無声映画が始まった、弁士はあの徳川夢声である。英子さまはすっかり映画に引き込まれ、時の経つのも忘れた。そして終盤も近づき、肩の力を抜きかけた時、凄まじい音がして、真っ暗になった。
おや、こんなシーンは、前にもあったぞ!? そうだ、軽井沢での映写会でも同じようなことが起こっていたな。
明かりが点くと、中央に倒れていたのはなんと、段熊先生だ。
英子さまと別宮さんが、この難事件の真相を暴くが、ベッキーさんの秘密も暴かれてしまう。
お名前.com北村薫さんのプロフィール
(きたむら かおる、本名 宮本 和男[1]、1949年12月28日 -)は、日本の小説家、推理作家。ミステリをはじめとする小説の執筆に加え、エッセイやアンソロジー編纂も手がける。早稲田大学元教授。(Wikipediaより)
著者の作品
1989年、覆面作家として東京創元社「鮎川哲也と十三の謎」の1冊『空飛ぶ馬』でデビューした。1991年に『夜の蝉』で第44回日本推理作家協会賞(連作短篇集賞)を、2006年に『ニッポン硬貨の謎』で第6回本格ミステリ大賞(評論・研究部門)・2006年版バカミス大賞を受賞する。代表作『スキップ』等で、直木賞最終候補作に6度選ばれている。(Wikipediaより)
価格:627円 |
〆