まえがき
2016年3月初版
この本の備忘録として、あらすじと感想を残します。
落ちというほどのところが無かったので、単なる要約のようになりました。ネタバレとも言わないのだろうかと。
白岩玄さんのプロフィール(本書の紹介文より)
1983年 京都市生まれ。 しらいわ げん。
著者の作品
2004年「野ぶたをプロデュース」で、第41回文藝賞を受賞し、デビュー。
同作は、芥川賞候補になり、またテレビドラマ化され、70万部のベストセラーになった。
他の著書に「空に唄う」「愛について」「未婚30」などがある。
あらすじ
ヒーロー!
佐古鈴は、同級生の新島英雄に頼まれて、彼のヒーローショーの演出をすることになる。初めは乗り気でなかったが、英雄のバレーが意外とうまかったことと、自分の演出の手腕を試せるいい機会だと考え始めた。
ヒーローショーの目的は、学校の休み時間に、校庭でヒーローショーを行って、いつもなら休み時間に行われていたいじめの隙を与えないようにして、結果的にいじめをなくそうということだった。
決行の当日、一限目の終了を知らせるチャイムが鳴って、英雄は大仏のお面をかぶって校庭の真ん中でバレーを踊り出した。ほとんどの生徒の注目を集め、佐古鈴は、体の中を駆け巡る興奮に満たされた。
だが、当然学校側が、これをほっておくはずは無く、大仏のお面は没収されてしまった。しかし英雄は、校長に直談判し、ヒーローショーの目的と演出者のことを話してしまった。話は意外な方向に進み、学校公認となってしまう。
ところが、今日は英雄ではない生徒が二人、ボクシングの見世物を始めた。鈴はその仕掛け人についてピンと来ていた。演劇部で鈴とタッグを組んでいる脚本担当の玲花である。ヒーローショーの仲間外れにされたのが悔しくてやったことだと鈴は英雄に話すが、英雄はあまり意に介していないようだ。
そこへ、とびきりかわいい転校生の星乃あかりが来るという噂。英雄と鈴は今までも転校生がいじめられるのを見てきていたので、転校生が来たときの、飛び切りのアイデアを考えた。玲花との勝負でもある。
そして、つぎに鈴が考えたのは、「大仏マンが美少女転校生に恋をする」という設定だったが、それは星乃あかりに対するいじめになってしまうと言われ中止に。
その代わり、大仏マングッズのうちわを作って盛り上げようというものだった。
ところが、そのすきをぬって、玲花たちが考えたのは、競走馬家族の連続ドラマであった。ちょっと分かりにくいが、擬人化された馬の家族の物語といったところだ。
こちらは、男子にもなかなか評判がよかった。
九月になって、鈴は玲花を呼び出して、金を払ってまで役者を募ってやることじゃないと諭したが、玲花は聞く耳を持たないのであった。
次の日、校長に呼び出され、いじめを受けていた子らの様子が好転していることで、校長先生からお礼を言われた。
ところが、玲花はそのうち活動は出来なくなるという意味深な言葉を鈴に告げた。
ほどなく、三年生に呼び出された英雄は、ボコボコにされて帰ってきた。それでも英雄はやめなかった。
鈴は、英雄の幼馴染の公平を呼び出して、どうしたらいいか相談した。
そのとき、英雄と公平が抱えている闇について聞いてしまった。
とてつもない闇であった。
公平は鈴に言う。『そのことがあってから、僕は考えるようになったんだ。こちらが正しいからと言って、その正義を貫くことはほんとうに善なのかって。』
だから英雄がいじめをなくしたいと言ったとき、公平は英雄に『直接的に働き掛けない方法でやってほしい。』と頼んだのである。
そして、ついに星乃あかりが動き出した。
英雄をいじめていた三年生をナイフで黙らせ、英雄と親しく話をする様子を校内に見せつけるように振舞いだした。
そして、星野は校内の有力部活であるチアリーディング部に協力を求め、大仏ヒーローショーは、不動の人気となっていった。
いつしか鈴は、部室でひとりランチを食べるようになっていた。部室に行くと、すでに鍵が開いていた。そこには玲花がいた。鈴は玲花からなぜ今回のように張り合ったのかという理由を聞いて愕然とする。
鈴は、もう争うことはやめようと諭すが、その態度自体が玲花には気に入らなく、いつまでも平行線で、イライラからついには取っ組み合いのけんかまでしてしまうのだった。
文化祭の当日、英雄と鈴は面白い大仏マンショーを考えていた。なんと校長先生とコラボするのだ。かねてからの打合せ通り、校長先生は偶然指名されたかのように指名された舞台に上がり、大仏マンとみごとなダンスを披露したのである。
そして、三年生が部活から引退していく。三年生も玲花もいなくなって、鈴は部長の大役を任されることになるが、肝心の脚本担当が不在で、面白い演劇が出来ていなかった。
今日から始める昼休みの演劇ショーは、一応鈴が自分で書いてみた「白馬の王子様」である。鈴は玲花との溝を埋めるために、玲花が見ているであろう校舎に向かって全力を尽くすのであった。
どうぶつ物語 ~その後の演劇ショー~
ヤギ、イノシシ、ハト、カメ、カルガモ、トナカイ、ブタ、スカンクとある。
これらは、動物を擬人化した演劇らしい。玲花も脚本を書いているから友情は回復したと読み取るべきか。内容はくだらないがソコソコ面白い。
作品の背景
鈴が玲花との演劇バトルをヒートアップしているとき、玲花が自分の脚本のすばらしさを誇示するために、ついに三年生にお金を渡して、英雄に暴力を振るうようになっていた。公平に相談すると、彼は今までの経緯を話してくれた。
そして、こう言う。
『僕は人間の心の中に宿る正義ってものが怖いんだよ。僕らが正しさを掲げるときには必ず見えなくなるものがある。・・・この世の中にある争いや「いがみあい」はみんなそうやって生まれてる』『正しさは人から優しさを奪うんだ』
文化祭の練習を、密かに校長先生の自宅でしているときに、なんでここまで協力してくれるのか、ついに話してくれた。
『君たちの提案を受けたのは、君たちの提示した方法が『生徒たちの居場所を作るもの』だったからだ。・・・理不尽な扱いを受けている生徒が、本来の自分のままでいられる環境を自然な形で作り出す。私はそこがいいと思った。・・・学校に自分の居場所があれば、生徒たちは学校に来る。』
いじめについての一つの考え方として参考になるとは思う。SNSでの誹謗中傷も同じではないか。
作品の感想
いじめをする暇を与えないための、休み時間に演劇をして、いじめる側の人間の気を逸らそうというアイデアは面白いが、現実には受け入れられることは難しいと思う。
そのあと、演劇対決に視点が移ったかと思ったが、思ったほどにはヒートアップしなかった。
最後は壊れた友情が戻るのか、に期待が移ったが、こちらも結末が見えなかった。
という三点から考えると、私の中では、もうひとつ盛り上がりに欠けたと言わざるを得ない。
主な登場人物紹介
私:佐古鈴(さこすず)、高2、演劇部演出担当
新島英雄(にいじまひでお)、高2
英雄の幼馴染の公平
小峰玲花(こみねれいか)、高2、演劇部脚本担当
なめくじ、いじめられっ子のひとり
沢田先生、生活指導の体育教師
校長先生
三上先生、演劇部顧問
高田先輩、演劇部部長
星乃あかり、転校生
〆