まえがき
花巻で発見された男の凍てつく死体、発見した女子高校生が迷い込んだ「忘れられたその場所」はハンセン病と深く関わっていて、犯行動機は怨恨の線が考えられた。シングルマザー刑事の川野絵美と新米刑事の麻戸浩明はぶつかり合いながらも真相を探り出していく。
どうやら、この本には章立てが無いらしい。
おかげで、目次は書けない。。。
書評(のような感想のような)
不思議な影を見ることがある(能力)を持った高校生の滴原美和が、転校先の村で不思議なエリアに迷い込み、ポツンと一軒家の縁側に人が座って亡くなっているのを発見する。
それは、表向きは殺人事件だが、なぜこのような辺鄙なところで、このような姿勢で殺されたのかという疑問を含みつつ、思いもかけない事件の始まりを告げるものとなった。
むかし明治のころか戦後か、ハンセン病が流行り隔離されるという時代があった。
今では有効な治療法が確立されているが、当時、らい菌が感染したあとの不衛生な環境のせいで、手足などが腐るなどして結果的に見栄えが悪い姿になったものだから、当時の人々はその原因を遺伝だと信じて、感染者を出した一族は、おぞましいものたちとしてみられ、感染者に対しては強制隔離政策が実施される時代が続いたのである。隔離された人は、家族や友人とも一生会えなくなり死んだことにされたのである。これは過酷すぎるし、間違った施策であったとしか言えない。
美和が遭遇した殺人遺体とこのハンセン病との関係がやがて、県警と所轄の捜査によって明らかになってくる。それは地道な捜査の結果であった。
推理小説のような展開はなく、ハンセン病という社会問題や警察組織での生き残り方、警察内の女性の立場についての学びが得られる内容である。
麻戸刑事の父親が町医者であったおかげで、事件について父親に相談して、「療養所」というキーワードから「ハンセン病」というキーワードに辿り着けたというのは都合の良い設定ではある。
捜査の一環としてハンセン病について図書館で本を借りて、その著者に聞いてみるという捜査方法も初めはやや飛躍している気もしたが、限られた領域あるいは専門性から、著者の人脈がいろいろと繋がっているだろうということは想定され、犯人の関係者に辿り着かせる点も不自然ではない。どうやって捜査するのかは刑事自ら考えないといけない点などは学びであった。
この物語は、このような社会的な事実に興味がある方にお勧めできると思う。推理小説としてだけではなく、田舎の出来事とか人々の暮らしなどを感じたいときにもよい本だろうと思う。
そのほかの特徴としては、登場人物の周辺にも障害者に類する人がいて、捜査過程で明るみに出てきたハンセン病患者についても他人ごとではないという感情を持つので、事件の捜査過程では、人間の気持ちや思い出の描写が多いという構成になっている。
事件の捜査担当区分
・地割り 目撃情報の聞き込み
・敷鑑 被害者の人間関係を犯人まで辿る
・地取り 目撃情報の聞き込み
・ナシ割り 遺留物や凶器の捜査
記憶
P281 「いつか寒い土地を馬と旅していた旅人が、冬の嵐に巻かれて雪の洞窟に閉じ込められる話を読んだことがあった。追い詰められた旅人は愛馬の腹をナイフで掻っ捌き、その内蔵に全身を潜り込ませることで寒さを凌ぎ朝を迎えたという。」
➩これは読んだことがある!と思った。
倉数茂さんのプロフィール
1969年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。専門は日本近代文学。2005年より5年間、中国大陸の大学で日本語を学ぶ学生を対象に日本文学を教える。帰国後の2011年、訪れた田舎町で殺人事件に出会う少年たちを描いたジュブナイル小説『黒揚羽の夏』(ポプラ社)でデビュー。(WEB上の紹介文より)
〆