はじめに
みなさんは、自分が子どものころに絵にかいていた好きなキャラクターはありませんでしたか?あるいは、自分で物語を作って友達に聞かせたりしませんでしたか。
あまりにも昔のことなので、ほとんど覚えていないでしょう。
また、子どものころ、おじいちゃんおばあちゃんから言われていたことを忘れていませんか。
そのような忘れかけていたキャラクターや小さい頃に言われたことが、今の自分に大きな影響を与えているかも知れません。
この物語にも、そういったものが関係しているように思います。
主人公の御倉深冬(みくらみふゆ)が、御倉館という大きな書庫とその街で、御倉一族と街の人々の間で起こる不思議な現象に会いながら、大事な何かを手に入れるのだと思います。
この本の備忘録として、あらすじと感想を残します。
深緑の訳さんのプロフィール(本書の紹介文より)
1983年神奈川県生まれ。ふかみどり のわき。
著者の作品(本書の紹介文より)
2010年「オーブランの少女」が第7回ミステリーズ!新人賞佳作に入選。13年、入選作を表題とした短編集でデビュー。15年に刊行した長編小説「戦場のコックたち」で第154回直木賞候補、16年本屋大賞第7位、第18回大藪春彦賞候補。18年刊行の「ベルリンは晴れているか」では第9回Twitter文学賞第1位(国内編)、19年本屋大賞第3位、第166回直木賞候補、第21回大藪春彦賞候補になる。
あらすじ
第一話 魔術的現実主義の旗に追われる
読長町(よむながまち)の御倉(みくら)嘉市さんは、名の知れた書物の蒐集家で評論家だが、娘の御倉たまきはすでに他界。
この物語は、たまきの長男あゆむ(現在の御倉館の管理人)の娘の高校一年生の御倉深冬(みふゆ)が主人公、と書いてくれている。かつてない親切な作家だ。
あゆむの妹のひるね叔母ちゃんは、人に迷惑をかける困った人らしい。深冬の母も早くに他界。御倉館の大部分は窓がない。なぜなら本は日光と湿気を嫌うから。
そのひるね叔母ちゃんの様子を見に御倉館に行った深冬は、文字通り“昼寝”しているひるね叔母を見つける。なかなか起きない叔母の手にはお札のようなメモ握られており、引き抜いて見てみると、そこには「この本を盗む者は、魔術的現実主義の旗に追われる」と書かれていた。
その文章を声に出して読んだとき、突然風が吹いて、お札が舞い落ちた先には白い髪の少女・真白(ましろ)が立っていた。
深冬は家に帰ろうとするが、その少女が言う。「帰れないよ。泥棒が来て、呪いが発動したから」 「信じて。深冬ちゃんは本を読まなくちゃならない」と。
少女に読むように言われた本のタイトルは「繁茂村の兄弟」。深冬はその本を読み始めた。
途中まで読んで深冬は、真白にもう帰るというが、不思議な現象が次々に起こる。
そして真白が言う。「御倉館の全ての本に本の呪い(ブック・カース)がかけられている。
御倉一族以外の人間が館の外に本を持ち出したら、呪いが発動する。物語を盗んだものは、物語の檻に閉じ込められる。
今回の呪いは「魔術的現実主義のブック・カース」「深冬は檻に閉じ込められた泥棒を探さないと街は元に戻らないよ。」と真白が言う。
このあと、街の様子が変化していく。自分の姿は狐に変化しているようだ。本を盗んだ犯人を捕まえなくては。。。
犯人を捕まえたとき街は・・・。 そして本嫌いだったはずの深冬の手には・・・。
第二話 固ゆで玉子に閉じ込められる
その後、ふつうに高校に通う深冬であるが、第一話のことが気になっている様子。
体育教師の菊池田が、深冬の父あゆむの見舞いに行くという。あゆむは道場師範で今は入院中だ。
今日の読長町は、どことなくせわしない雰囲気だ。どうやら年に1,2度の“本の町”の取材があるらしい。御倉家は、御倉館があるので裕福に思われがちだが、実際はそうではない。
それにしても、深冬ちゃんは、父の世話、叔母のひるねの世話にアルバイトと、まさにヤングケアラーである。
ひるね叔母ちゃんに食料を届けに御倉館へ行くと、鍵が開いていた。何かがいつもと違う。ひるね叔母ちゃんは、いつものようにその名の通り眠っていた。
食料を置いて帰ろうとしたそのとき、ひるね叔母ちゃんの右手に一枚の紙きれがあることに気づく。あのときと同じだ。手から引き抜いて見ると、「この本を盗む者は、固ゆで玉子に閉じ込められる」と書いてあった。うっかりそれを口にしたとたん、どこからともなく風が吹いてきて。。。
どうやら、また本が盗まれたらしい。現れた少女に読むように言われた本は「BLACK BOOK」
深冬は、その本を読み始めた・・・
いまごろ気付いたが、深冬が少女に読めといわれて、読みかけた本から顔を上げると、その物語の続きが読長町の人たちによって演じられているということのようだ。だから顔見知りではあるが、彼らは深冬のことは知らないといった設定になる。そしてこの不思議な状況の町で、本を盗んだ犯人を見つけなければ、呪いは解けないのである。
こんどの話は、固ゆで玉子、そうハードボイルドだ。
派手な物語を乗り越えて、ようやく本を見つけたとき・・・。
帰ろうとした深冬は、御倉館の玄関でメモを発見する。
そこに書かれていたのは。。。
第三話 幻想と蒸気の靄(もや)に包まれる
深冬は、もろもろの信じてもらえそうもないことは包み隠して、メモについて父あゆむに相談する。
話を聞いた父あゆむは娘の身を案じ、ひるね叔母さんのいる御倉館へは行かなくていい様に別の人に世話をお願いすることにした。
御倉館が嫌いで、叔母の面倒も見なくて良くなったのだから、喜ばしいはずなのに、深冬は何か心が落ち着かない。
むしゃくしゃしているところに、なんとあのメモを書いたという女が現れた。もちろん、奇抜ではあるが人間の恰好をしている。深冬は彼女からある提案を受ける。どうやら彼女もどうして御倉館から本を盗むと、ファンタジーの世界に入り込むのか知りたいらしい。そこで、実験してみてはどうかというのだ。又盗んだら同じことが起こるのかを確かめようというのだ。
そう言うと先に行ってしまった女を追いかけて深冬も御倉館へ。すでに玄関の鍵は開いており、またしてもひるね叔母さんは眠っていて、その手にはメモが握られていた。「この本を盗む者は、幻想と蒸気の靄(もや)に包まれる」
タイトルを口にすると、真白が現れた。そして彼女に読むように言われた本は「銀の獣」
その中で、犯人らのとんでもない事実が明白になる。
犯人を捕まえ、目が覚めた深冬は、まだ眠っている叔母のまひるを見てから、掴んだ事実を父に伝えようと御倉館から外に出ると、町の異変に気付いた。
第四話 寂しい街に取り残される
町のどこにも人がいないのである。
そして犯人の一人と遭遇する。
病院に行ってみたが父の姿もない。
そこに、父の手帳が置いてあった。
犯人の一人は、手帳に書いてある小説を読んでみたいというので、深冬はしぶしぶ一晩だけ貸すことにした。
そこには、御倉家の秘密が書かれていた。
深冬と犯人の一人は、人がいなくなった真相を突き止めるために、ブック・カースの世界へ侵入しようと「さよならの値打ちもない」というタイトルの本を盗んだ。
そして、ひるね叔母ちゃんの手には、あのメモが。
「この本を盗む者は、寂しい街に取り残される」
御倉館が、ぐらりと揺れてブック・カースの世界へ入ったようだ。
だが、そこに現れたのは、真白ではなく、苦手なあの人だった・・・
窮地に陥った深冬の前に真白が現れる。
苦手なあの人から逃げながら、真白は深冬に「人ぎらいの街」を急いで読めという。
物語の中で、犯人を含めた三人は真相に近づいていく。
「己が街に拒まれたならば、神の居所をもとめよ」
その神の居所に近づこうとした彼らに・・・
・あゆむとひるねが終いしときは、孫深冬と真白に託す!
第五話 真実を知る羽目になる
神の居場所で、深冬は真実を知る羽目になった。
そして、持っていた父の手帳に書かれていた物語を見せられる。
すると、その物語の中へ。。。
この物語から抜け出すためには。。。
深冬は、新たなそして最後の大きなミッションをひとりで遂行しなければならない。
でもそうしないと、深冬や街の人たちは永遠に。。。
深冬は勇気を振り絞り、知恵も絞って、言われた事を思い出しながら真相に近づいた。
さあ、どうやってこの状況から抜け出すのか、最後は一気に加速する!
深冬がみごとにブック・カースを打ち破るシーンを見て頂きたい。
作品の感想
ファンタジーな部分とホラーな部分と推理小説な部分と、名の知れた一族に生まれた者の宿命的なお話、幼い頃の話などが入り交ざっている小説である。
第一話から第五話まであって、第四話までは、このファンタジーな世界が繰り返されるのかなと思って読むと、第四章あたりから謎解きの要素が多くなり、第五章はタイトルどおり真実が解明されるという流れになっていて、とくに第五章はスピーディな展開でした。
すべてが終わったとき、若い深冬(みふゆ)に小説家の神様が舞い降りて来たようだと思った。
主な登場人物紹介
御倉深冬 主人公、高校一年生
御倉嘉一 深冬の祖父
御倉たまき 深冬の祖母
御倉あゆむ 深冬の父
御倉和音 深冬の母
御倉ひるね あゆむの妹(深冬の叔母)
真白(ましろ) ひみつ
読長町の人々
〆