『教場Ⅹ』 刑事指導官 風間公親

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『教場Ⅹ』 長岡弘樹 あらすじ 感想

目次

はじめに

刑事指導官という新しいキャラクターを打ち立てている。
新人刑事の入門書になりそうだと思うのは、素人の考えだろうか。
風間教官のように、細部まで冷静に観察することは、かなり難しいだろうと思われるが、門下生らは、こちらが思っている以上に優秀ではある。だが、教官には及ばない。

あらすじ

第一話 硝薬の裁き P6~P54

登場人物
・益野紳佑(ますのしんすけ):47歳、マスノ製作所(機械部品の製造)社長、従業員20人
・娘の麗馨(れいか):小学生、母の死のショックで声がでなくなった
・妻の才佳(さいか):半年前、交通事故で死亡
・海藤克剛(かいとうかつたけ):質屋

県警本部
・風間公親:刑事指導官、近寄りがたい、右目は義眼
・鐘羅路子(かねらみちこ):風間道場の門下生、中古品アレルギー


質屋の海藤は、投資に失敗して、1500万円ほどの借金があった。
益野は、取引先を回るふりをして、海藤の会社へ行き、拳銃で脅して遺書を書かせて、射殺した。

その日、小学校の養護教諭から連絡があり、娘の麗馨が学校で軽い怪我をしたというので、学校へ行き、娘を引き取ったが、養護教諭は父が来た時に麗馨の息が乱れたことに気づいた。

海藤の死体が、アルバイトによって発見され、鐘羅路子(かねらみちこ)は現場に向かったが、すでに風間教官が到着していた。

さっそく風間教官から、気づいたことについて質問攻めに合う。

そのあと、鐘羅路子は射撃訓練のあと、益野紳佑宅を訪ね、アリバイを確認した。
益野紳佑は、あっさりといつものように海藤宅に寄って、妻を事故死させた罪を謝罪するよう迫ったことまで話したが、そのまま帰ったという。鐘羅路子が海藤の娘の麗馨(れいか)と綾取りをしていると、麗馨の息が乱れた。

風間は、益野紳佑が「娘を苦しめている海藤を刑務所に送ってやりたいと思っていた」という発言に、帰り際「その言葉を、決して忘れないでください」と言うのだった。

(この時点で、犯人に引導を渡しているように感じた。)

益野宅から帰る途中、鐘羅路子は「いまのところは、お手上げですね」と言えば、風間教官からは、「本気で言っているのか」「警察学校にも交番勤務にも戻りたくなければ・・・」と畳みかけられた。



風間と再度現場の質屋に行った鐘羅路子は、緊張の為、自分の中古品アレルギーが出ていないことに気づいた。

そのアレルギーの線から、風間と鐘羅路子は犯人を追い詰める。

第二話 妄信の果て P55~P98

登場人物
・戸守研策(ともりけんさく)、私立興和文化大学・文学部の四年生、就活は終了し地元新聞社の内定済
・梨多真夫(なしだまさお):人文地理学教授、庚申谷(かねたに)という地域に住む
・下津木崇人(しもつぎたかひと):新任刑事

私立興和文化大学の四年生の戸守研策は、就職の内定も得て安心していたが、「刑事訴訟法概論」の講義中に、最も必要な人文地理学の論文担当教授から留守電が入っていた。

「刑事訴訟法概論」の講義のあと、その留守電を聞いた戸守研策は、耳を疑い、血の気が引いた。
「残念ながら、提出してもらった論文の単位を出すことはできません」



急いで教授を訪ねたが、教授の部屋の扉には「7月26日から二週間、海外出張のため不在にします」という張り紙が貼られていた。

第三話 橋上の残影 P99~139

登場人物
・篠木瑤子(しのきようこ)
・加茂田亮(かもたりょう)、35歳くらい
・中込兼児(なかごめけんじ)

午前二時、通りすがりに人を刺す練習を積んだ篠木瑤子は、雨の中レインコートに包丁を忍ばせて歩道橋を目指した。

午前二時四十分、予定通り工場の早番で出勤する加茂田が現れた。
篠木瑤子は、練習どおり加茂田を刺殺した。

迷宮入りしている通り魔事件のやり方を模倣し、そいつを犯人に仕立てる作戦だ。



中込兼児新任刑事は、現場に向かった。
すでに風間公親指導官は到着していた。

中込刑事は、身元の特定方法を確認されるが、なんとか回答できた。
また、犯人像についての質問には、理由を挙げた上で、単なる物取りと怨恨の両方の可能性を回答し、風間教官から「正解だ」と言ってもらえた。

だが、中込は、風間教官からこの宿題をもらった。
犯人は被害者の身元を隠すべく、体を火で焼いていた。
なぜ、犯人は被害者の身元を隠す必要があったのか?

被害者からは、なんら宿題の答えにつながりそうなことは分からなかった。
そこで、風間教官は、犯人からたどればいいと言うが、それが分かれば苦労はしない。



犯人になったつもりで考えろ

・犯行を行う前の自宅でどうしていたか
・刺すだけのはずが、なぜ大量のオイルを持っていたのか
・典型的な、高架橋のミステリーなら、どのようなことが起こり得るか

これらを思いつく思考力と知識が試されている。

中込は、それらの課題をこなしていくのである。

だが、そんなものが事件を目撃していたとは・・・。

第四話 孤独の胎衣 P140~P185

登場人物
・萱場千寿留(かやばちずる)、19歳
・浦真幹夫(うらまみきお)、40歳
・隼田聖子(はやたせいこ)、32歳、遅咲きの新任刑事、

萱場千寿留は、19歳妊婦。
産婦人科から出てきたところを、有名な工芸家の浦真幹夫に捕まった。

浦真幹夫は、萱場千寿留のお腹にいる子の父親である。
イタリアへ行っていて帰国したところだと言う。イタリア人の彼女ができて結婚することになったが、その彼女は子供を産めない体らしい。

だから、イタリアへ行く前に、浦真幹夫は「子供を墜ろせ」と言っていたが、事情が変わって認知するから子供を渡せという。身勝手な男だ。



萱場千寿留は、浦真幹夫の豪邸に無理やり連れて行かれて、財力を見せつけられた。
貧乏な萱場家は、千寿留の母も体が悪く、裁判になったら親権は浦真幹夫に取られるのは明らかだった。

彼女の手は、大理石の灰皿に伸びて行った。。。



捜査に当たることになった隼田聖子は、風間門下生だ。
現場に到着すると、風間教官はすでに検分を終えているようだった。

西隣の子どもが事件現場をじっと見ていた。
気になった隼田聖子は後日保護者の許可のもと、少年に聞き込みを行った。

目撃した人物は20歳くらいのスリムな女性だったとのこと。
犯人の萱場千寿留は妊婦であり、スリムな女性ではない(はず)。

翌日、萱場千寿留は自宅で赤ちゃんを出産したという。



子どもの目撃証言から、萱場千寿留は容疑者からはずれる・・・。

風間:「これまでの捜査を思い出せ。すでにヒントは出そろっているぞ」

赤ちゃんの足には、出産のときについた火傷のあとが残っていた。

第五話 闇中の白霧 P186~P228


登場人物
・名越哲弥(なごしてつや)、ネット通販を始める予定
・小田島澄葉(おだじますみは)、金持ち、母は死んだところ
・神谷朋浩(かみやともひろ)、新任刑事、風間門下生

名越哲弥と小田島澄葉は、違法な輸入雑貨のネット通販で一儲けした仲間だった。
頃合いを見て足を洗おうと名越が提案したが、澄葉は辞めるなら警察にタレこむと拒否した。

名越哲弥は、きな粉そっくりの物質を、S製薬の点鼻薬に混入した。
余った分を炊飯器のご飯でおにぎりにして、ベランダに置いた。ねずみ退治。



名越哲弥は、縁を切るために、小田島澄葉の自宅を訪問した。テレビのニュースではポロニウムなる放射性物質による暗殺が報じられていた。

彼女が入れてくれたコーヒーは、粘土を溶かしたようにまずかった。

「わたしもね、憎たらしい相手を始末するなら、ゆっくりじわじわ、体のなかから少しずつ死んでいってもらうわ」

この言葉を聞いて、名越はもうこの女を消すしかないと思った。

隙を見て彼女が常用しているS製薬の点鼻薬と家から持ってきた点鼻薬をすり替えた。

食事が終わって、名越哲弥は小田島澄葉の自宅を辞した。



神谷朋浩は、県警捜査一課への栄転を、姉夫婦宅で祝ってもらっていた。

甥っ子は、霧箱という簡易型の放射線測定器を工作して、庭で放射線の観測をしてみせて、名越を驚かせた。

宴が始まってしばらくすると、雨が降って来たので名越は窓をしめようとすると、窓から隣家の様子が見えた。窓を閉めようとした女性が、足元から崩れ落ちた。



神谷朋浩は、第一発見者となり、そこへ風間教官がやってきた。

「疑わしいのは、まず、第一発見者だ!」
神谷は、極度に緊張した。

さて、詐欺師同士の騙し合いの真相は如何に。

第六話 仏罰の報い P229~P283


登場人物
・清家総一郎(せいけそういちろう)
・甘木保則(あまぎやすのり)、総一郎の娘の婿、詐欺罪で服役の前科者
・甘木紗季(あまぎさき)、総一郎の娘
・平優羽子(たいらゆうこ)、県警刑事、風間が襲われた事件で現場に居合わせた。
・十崎(とざき)、千枚通しを使用した連続傷害事件の容疑者

清家総一郎は、高級シャンパンを飲みながら、あいつが来るのを待った。
午後八時前、あいつはやってきた。

この暴力男に娘を嫁がせたことを悔いぬ日はない。
清家総一郎は、大学での実験事故で、今は眼が見えない。
甘木保則は、今月分の生活費を催促してきたので、五十万の入った封筒を渡した。

甘木が、落ちた一万円を拾おうと屈んだとき、清家総一郎は渾身の力で、それを振り下ろした。



なぜか、風間道場を卒業したはずの平優羽子が事件現場に呼ばれた。
その理由は?
犯人の背中に刺さっていたのは、千枚通しだった・・・。

現着して、風間と合流し意見交換後、清家教授に被害者発見時の状況を確認した。
駆け付けた娘の紗季も同席した。
話によれば、甘木保則は詐欺で騙した多くの人から恨まれていただろう、というものだった。
娘の紗季は夫のDVにより目の周りに痣ができており、大きなサングラスを掛けていた。

平優羽子は、清家教授にサングラスを外して、眼を見せてもらった。
確かに、薬品がかかった目は、もう見えてはいないことが分かった。



清家教授に犯行は不可能だということから、詐欺の被害者が調べられたが、13人ともアリバイが成立した。



この難題に、平優羽子はどう対応するのか。

周辺に、十崎の影がちらつく。彼の存在は風間の人生をまたも変えることになりそうだ。

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感想

私が「教場」を知ったのは、TVで放映されてからなので、木村拓哉さんのイメージが脳裏に焼き付いている。
そのため、本書を読んでいても、木村拓哉さんの姿しか浮かばない。

さて、本書の各編のストーリーは、犯行が行われて読者は犯人が分かっている状態で、警察がどうやって犯人を逮捕する証拠を探しだすのかというものであるから、昔好んで見ていた「刑事コロンボ」シリーズのような筋書きである。

但し、刑事指導官と新任刑事がコンビを組み、新任刑事が対応していくという設定は新しいものでしょう。(私が知らないだけかも知れません。)

そのため、読者も新任刑事と同じような緊張感を持って、推理するので、三百ページ近いが、思ったより早く読み進めることになりました。

細部にわたるまで、TVシリーズでの描写と同じだという印象ですので、読んでもいいし見てもいい。

早く、風間公親と十崎との因縁が分かればいいと思うが、それはシリーズが終わるときかも知れない。

長岡弘樹さんのプロフィール

1969年山形県生まれ。筑波大学卒。2003年「真夏の車輪」で第25回小説推理新人賞を受賞。08年「傍聞き」で第61回日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞。13年に刊行の『教場』は、週刊文春「2013年ミステリーベスト10国内部門」第1位に輝き、14年本屋大賞にもノミネートされた。他の著書に『教場2』『救済 SAVE』『119』など。(WEB上の紹介文より)


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