印象に残ることがらが近頃ではどんどんなくなっていく。日常を過ごすだけでは飽き足らない人たちの秘密。
引力の欠落
内容紹介と感想
ひとりの才能ある公認会計士の行先馨女史が、会社を渡りあるき、財を成し、飼っていた猫のAlexaがいなくなって、スマートスピーカーのAlexaを愛用していた。すべてがうまく行っているはず彼女は、そのときいた会社で社長に抜擢されたが、実は会社は借金まみれで、さらに元社長は借金を作って逃亡した。
借金会社の社長にされてしまった彼女は、カジノに掛けるが大金を失ってしまい、ついに弁護士を頼ることになる。しかも金を借りた金貸しは、かなりタチの悪い筋だという。頼ったマミヤ弁護士が優秀で、うまく話しをつけてくれることになる。会社はたたむしかない。
オフィスビルのカフェで、行先馨さんは思う。
行先さんは、マミヤ弁護衣との食事の席で、「水からガソリン」という、わけのわからない昔話を聞かされ、怪しい研究をしている人や、別の変人の人たちの集まりの話も聞かされる。
わたしの友人の友だちから聞いた話を思い出した。彼のLINEには、5年以上連絡もしなくなった、スナックの女性たちの名前が並んでいるという。彼女たちは彼をLINEから消去しないで放置するが、たまにアイコンが変わっていたりするという。
一生分の財を成した彼女にとって、日常があまりにも退屈だったのか、いつの間にか行先さんは、その世界(マンションのペントハウス)に立ち入ったようだ。
9人のクラスターと呼ばれる人たちは、それぞれ役割があるようだ。「遠方」「斥力」などと呼ばれている。
彼らは、次のような信仰を持った(持っていると思い込んでいる?)珍しい集団らしい。
・精神は、何代も受け継がれている。
・肉体は、UEH(Unidentified Existing Human)呼ばれ、意味は「未確認生存人間」である。
・9人が柱(クラスター)となって、世界を支えている。
ここから、ずっと、各クラスターの身の上話が続く。
とか、
分かるような分からないような話が続き・・・
やはり、オタクすぎて精神が壊れた人たちなのだろうか、と思う。そして、最後の「第三章 引力の欠落」に突入する。P187
そうだそうだ、と思う。
帰納法とは、同じような事象を複数見つけ、その共通点から結論を導く手法だが、「世界はただ帰納的に組みあがっているだけ」というのがよく分からない。がんばって解釈すると「世界は個別の事象がいっぱい組み合わさっただけのもので、もともと“存在理由”があって存在している(演繹的な)ものではない」と言うことだろうか。
そして、別のクラスターが、彼女を勧誘する。
なんだか、新興宗教の勧誘のような説明である。
この小説はSFだったのか、と一瞬わたしまで闇の世界に取り込まれそうだった。いやいや、これは現代の話で、さきほどの話はオカルト集団が作り出した世界観のようなものに違いない、と私は思った。
その世界(マンションのペントハウス)から帰る途中、彼女を誘った弁護士は、
そういう、弁護士さんも、その世界に通い続けている極端な人ですよね!?
部屋に戻った彼女は、またAlexsaとの会話を始める。
いま話題になっているChatGPTなどのAIの結末もこうなるのだろうか。
マミヤ弁護のおかげで、行先馨さんは会社を無事たためそうだ。
まともな人間の話だったのか。ペントハウスの面々は精神を正常に保つために活動しているのか。
ああ、最後はなんか社会問題の話を聞いたような気分だ。
そろそろ寝ないと、明日も会社だ。
上田岳弘さんのプロフィール
1979年兵庫県生まれ。2013年「太陽」で第45回新潮新人賞を受賞しデビュー。15年「私の恋人」で第28回三島由紀夫賞、18年『塔と重力』で第68回芸術選奨紋科学大臣新人賞、19年「ニムロッド」で第160回芥川龍之介賞受賞。(本書の紹介文より)
著者の作品
『異郷の友人』『キュ』『旅のない』など。(本書の紹介文より)
〆