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あなたの人生逆転させます 新米療法士・美夢のメンタルクリニック日誌

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著者 小笠原慧

この本の内容と感想を紹介します。

目次

CASE 1.ビューティフル・ドリーマー

 修士課程までいって心理学を学んだ森野美夢(もりのみゆ)は、就活に苦戦していた。

 そんなとき、ある求人広告が目に入った。”新規開院につき、意欲あふれるフレッシュな人材を求めます”

 これだ! 全くダメかと思われた面接であったが、なぜか合格通知が届いた。

 美夢は、夢をみると「夢の辞典」で調べる習慣を持っている。

 今日も変な夢を見たらしい。

 無事に?就職した美夢は今日、模擬診察の研修である。

 患者さん役は、薬や医療品の営業さんたちである。やはり、営業は大変である。

 先輩方のうまいインテーク(よく分からないが、調べると、クライエントとカウンセラーの 信頼関係 (ラポール) を形成する予備面接らしい)を聞いて焦る美夢であったが、ついに自分の番が来てしまう。

 なんとかインテークを時間ぎりぎりで終えて、奥田先生にその内容を報告すると、その症状の患者役はシナリオにないよと言われ、びっくり。美夢がインテークを取ったのは、本物の患者だったのである。

 症状は、解離性遁走(フーグ)である。気が付いたら、とんでもない場所(東尋坊とか)に居ることに気づくらしい。そして、そこに行くまでことは記憶に無いらしい。

 ついに、奥田マジックで有名な奥田先生によるカウンセリングが始まった。美夢も同席を許され奥田先生のテクニックをまじかで見ることができた。

 患者であった高山さんは、四十代サラリーマンで建築事務所に勤め、家族は妻と子供二人がいる。

 そして、忘れたかったことを見事に思い出させ、自分がどうしたいのかを、うまく誘導していく。

 患者さんが、迷う地点で、適切な語りで行く先を照らす。

 ついに、高山さんは、あること(すべきこと)をする決断をするに至った。

 ここまでで、クリニックの仕事は終了である。

 後日、高山さんから幸せそうな家族の写真とお礼の手紙が届いた。

 美夢と奥田先生は、終わってしまいそうだった高山さんの人生を、最後の最後に逆転させたのである

CASE 2.母子カプセル

 美夢の夢のシーンから始まる。どうやら夢判断から始まるのが決まりのようだ。

 今日の夢は、デパートの化粧品売り場。高級化粧品を顔に塗られ、鏡をのぞくとそこには顔が無かった。

 「夢の辞典」で調べてから、八時過ぎにはクリニックに着いた。

 電話番をしていた美夢に、四十代のてきぱきした感じの女性から相談の電話があった。中学一年生の息子が非行に走り始めたというので、一度相談に来たいということであった。

 美夢は診察室の院長にそのことを報告しに行くと、電子カルテの導入について看護師と話しており、ドクターの代わりにカルテを記録する助手(医療クラーク)が必要だと言うので、ちょうど美夢にその役をお願いするところだったというので、快諾した。

 数日後、やや困り切った表情の中年の女性が現れた。息子は来ず、母親だけの来院となったようだ。

 インテーク(予備面接)は、美夢が行うことになった。発達障害が原因の場合も想定し、育成歴についてしっかり聞くことにした。

 小学校にあがるまでは順調だったが、小学校に上がってからADHD(注意欠陥/多動性障害)と診断された。

 薬を飲んでいるときは落ち着いていたというから、こんどは既往歴や家族歴を聞いた。すると、昨年の十二月に離婚したという。

 昨晩の夢のお告げを思い出した。~外見と印象に惑わされるな~

 最初に思い当たるきっかけを聞いたときに、離婚のことは話さなかった。ムッとしている美夢をみて、女性は饒舌に弁解した。なるほど、患者に話を誘導されてしまっては、なんのための診療内科であろう。

 院長との面談に移り、院長から男の子にとって父親がいなくなると影響が大きいことを告げると、女性は大きく息を吐き出した。

 初めは、息子も父親を嫌っていたと言っていたのだが、すこしずつ院長は真相を暴いてゆく。おお、まるで取調室の刑事のようだ!

 実際は自分の思いを息子にも押し付けていたのだ。

 そして、核心に近づいていく。「そもそもどうして離婚されたのですか?」「ただ合わなかったということになろうかと思います。」「これと言って、あの人に非があったわけではないんです」

 なんということか。あまりにも身勝手ではないのか、と思ってしまった。わたしも人のことは言えませぬが。。。

  そして、彼女にとって非があったとすれば、「あの人が、母が来ると嫌な顔をるんです。それが、ずっと厭だったんです」

 毎週、母親が泊まり込みで週の半分きていたらしい。そりゃ嫌に決まってるでしょ!

 最後は、彼女の母親にまで説得されて離婚に至ったらしい。ひどい話だ。

 「今どうしてるなんか、関係ないわ、養育費さえ入れてくれれば」

 「息子さんにとっては関係あるんじゃないですか。私が息子さんでも荒れたと思いますよ」

 そして、ついに真因へ。お母さんとは相思相愛だった。

 でも、結婚が、お母さんの支配を卒業するチャンスだったはずです

 父親が年金暮らしとなり、家にいるのがうっとおしくて娘のところにくるようになったという。

 母親はそれでいいかもしれないが、そのために娘と夫が離婚することになり、それが原因で息子が非行に走ったことになる。もう取り返しはつかないのだろうか。

 ここで、院長は、バランスシート法というカウンセリングの技法を使うらしい。ほう。ソフトウェア業界で働く自分も少し興味が湧いてきた。

 お母さんが家に来てくれたことの、メリットとデメリットを整理する。

  • メリット
    • 家事や子育てを助けてもらえた
    • 働けて収入が100万円ふえた
    • 安心感(今はそうでもない)
  • デメリット
    • 息子との関係が希薄になった
    • 結果的に夫との関係がぎくしゃくして離婚した
    • その煽りで息子が非行に走っている
    • おまけに父はほったらかし

 その女性は言った「わたし、すごく損なことをしていたんですね」

 彼女は仕事を減らし、母親にも来る回数を減らしてもらい、うまくいくかと思われたが、実際息子の非行はエスカレートしているという。

 相談に来たその母親は、やはりまだ息子の気持ちを汲み取れていないようだ。そこを説明しても、息子の父親との関係を修復することには非協力的で、相談に来た目的も、自分が平和に暮らしたいだけたという。主語は自分のままである。

 そんな患者に院長は強烈な答えを突きつけた。

患者を治療するということは、患者を喜ばせることと必ずしも一致しないのか。この仕事の難しさに触れたような気がした。

 そして、より切羽詰まった様子で電話してきたその女性に、美夢は「元ご主人のところに行ってないか連絡してみましたか。」というと電話は切れた。

 数か月経ってから、その女性、野添明希子からメールで予約が入った。

 「先日は、せっかくご助言を頂いたのに、失礼な態度を取ってしまいまして」と頭を下げる。

 聞けば、美夢に電話で言われてからすぐに、元夫から電話が来たという。息子が来ているから、しばらく預かると。

 ついに、明希子は元夫の棲む安アパートに行った。このときまだ子供の親権を争うような気持でいた自分に息子から言われた言葉に、ようやく、そう、ようやく気付けたのである。

おれ、やってみたいんだ。母さんと一緒の方が、楽なのはわかっているけど、でも、母さんと一緒だと、おれ、甘えてしまって

 息子は、一人立ちしたかったのである。もう少しで明希子は、自分の母親と同じ過ちを繰り返すところだったのである。

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CASE 3.潔癖症

 きょうは、全身ずぶ濡れの夢だ。破れた傘。下着までびしょ濡れ。「夢の辞典」によれば、傘は安全の象徴、雨は欲求不満の表れ、危険な恋の予兆!

 最近は仕事が忙しく、人間の心の奥深さに、時がたつのを忘れることもある。

 今はデートをする相手もいないし、金欠なのでちょうどいい。

 クリニックに着くと、大学の心理センターにも助教として勤務する長身で端正な顔立ちの心理士の佐々木が週に1日だけ来るので、女性陣の様子が少し違うのがよく分かる。

 今度の新患は、大学二年生の女性で、極度の潔癖症と脅迫症状らしい。

 脅迫症状にも、いろいろあるのか、「確認脅迫だね」と院長が言う。そういえば、私も朝最後に出勤するときは、必ずベランダの鍵を確認しないと気が済まないのであるが、これも確認脅迫だろうか。

 もうひとつは、洗浄脅迫らしい。シャワーを浴びないと、自分の持ち物に触れないとは、会社ではどうなるんかな?

 予定通り、新患の女性、浅木萌真(あさぎ もま)はやってきた。

 インテークでは、他のクリニックで薬を処方されたが、吐き気がしてやめたと分かり、薬物療法は難しそうだ。

 インテークをした三宅さんから見立てを聞いてから、院長は診察を開始した。「いま、一番お困りのことは?」

 汚れが気になりだしたきっかけを聞く。高2の秋くらいから。

 聞いていくと、進路に迷ったとき、母が分かれた父に連絡を取ったという。萌真は父親の記憶がなく、心の中で理想の父親像を描いていたが、実際会ってみると期待とは違っていたらしい。

 そして、父が再婚していると分かり、あまりいい気はしなかったという。

 さて、原因が分かれば、あとは治療するのみである。

「不潔恐怖や脅迫行為を克服するのに一番大事なことは、不安から逃げない勇気を持つことです。」

「一度汚れてしまったら、もう元には戻らないと諦めてしまったらどうですか?」

 おお、なんとシンプルな答えだろうか。ほんとうだろうか?

 このあとは、心理士の佐々木がカウンセリングするようである。

 「人間はどんなことにも、慣れることができる生き物です。この慣れるという現象を利用した治療法が、エクスポージャー(暴露療法)です」

 普通の病院とは違い(違わないのかな)、いろんな担当の人がいるのが分かり勉強になります。

 行動療法に患者も意欲を持ってくれたという報告でほっとするが、患者の浅木さんにあとから記入してもらったパーソナリティ障害診断テストによれば、強迫性が強いだけではなくて、境界性(自己否定や情緒不安定)、演技性(自分に注目してほしくオーバーになる)傾向も出ており、強迫性だけの単純な結果にはなりそうもないことが分かった。

 そのあと、浅木萌真は予想に反して元気になり、今度は父の行動についての告白をする。まるで恋人の様に接してきて、大学に入ってからついには体の関係を持ってしまったという。

 そう話した彼女の頬には、涙の一滴も濡れていなかった。

 そして、浅木萌真の父親と思われる男から診察の予約が入った。個人情報は伏せてあるので、状況からの推察であったが、ほぼ間違いなさそうだ。

 言ってることが全然違うのだ。娘に対してそんなことは一切していないという。

 さて、娘には演技性があったことに注意すべきだったかもしれない。父親を再婚相手から取り返したいと思っても不思議ではない。子どもの頃は父親がほしかったという感情も、母親の前でぐっとこらえてきた思いが出たのだろう。

 だが、彼女にはまだ隠していることがあるらしい。父親は危険を感じて娘に会わなくしているのに、彼女が精神のバランスを保てていられるのは、まさか。

 「被害者になることで、罪悪感から逃れることができる」と院長は言う。

 どうやら、この患者の治療の道は長く続きそうである。

CASE 4.安全基地

 今日の夢は、葬式らしい。自殺のようだ。え、遺影の写真は自分だった。

 こわくて「夢の辞典」は見れなかった。

 開業して一年が経ち、朝から患者が行列するようになった。

 一人目の患者は女性。彼氏が付き添い。どうやら一人にされるのが怖くて彼にしょっちゅう連絡するので、彼も困り果てているらしい。

 彼女は子どもの頃、両親が離婚しており、彼女は母親を支えようとしたが、母からは疎まれたらしい。

 そして、死にたいという。

ここから先はきみ次第だ。

やってみたいです。少しでも自分を変えられるのなら・・・。

変われるよ。最大の敵は、変わりたくないと思ってしまう自分自身の気持ちなんだ

  院長は、患者の桜井さんに、一冊のノートを渡した。「心のトレーニング帳」

  ノートは六つの欄に分かれていた。

  • 日付
  • きっかけ(例:メールの返信が来ない)
  • 感情や行動の反応(例:見捨てられたと思う)
  • 自動思考(思考のクセ:すぐ見捨てられたと思ってしまう)
  • 合理的思考(きっかけを客観的に振り返る:仕事が忙しいだけかも)
  • 結果(その後どうなったか:例 彼からメールが来て仕事が忙しかったと分かった)

 翌週に、彼女は彼氏に付き添われ来院した。

 母は自分のことが可愛くないのだという。どうやら子どもの頃、おばあちゃんに預けられて育ち、実家に戻ったときは、よその子のように感じたという。大事な時期に母子ともに親子関係が築けなかったということが分かった。

 院長はついに、母親にも来院してもらうことにした。

BPDの人の根っこにある強い自己否定は、親という安全地帯を持てなかったことに起因していることが多い。

親にも事情があったことを、子どもも分かっているから、我慢しようとする。

親に変わってもらうしか。子どもが生きるか死ぬかの瀬戸際だからね

 母親が来た。彼女は、娘は気を引きたいだけではないかと言う。

 こんな親まで説得しないといけないとは、心療内科の先生は大変である。

 自殺のパーセンテージを告げると、母親の顔色が変わった。

娘の気持ちは、極力見ないようにしていた気がします。母親失格ですね・・・

失格とまだ決まったわけではありません。お母さんには、やり残した仕事があるだけです。

娘さんがまだ二歳にもならなかったときから、彼女にかかわれなかった分を、これから取り戻して上げてください

でも、もうあんなに大人になってしまっているのに

大丈夫です。娘さんは、そのために病気になっているのです。甘えそこなった分を、娘さんは取り戻したいのです。

そのために、病気に・・・

世の中は、待機児童解消って方に力をいれているけど、本当に支援が必要なのは、むしろ子どもが幼いうちは、安心して子育てができる環境の方じゃないかしら。

 著者が最も言いたいのは、このことかも知れないと思った。

 さて、二人目の患者さんは、仕事が出来そうなスマートな男性の高階祐樹さんだった。

 歯科医で風俗にはまっているという。

 育成歴から、母乳で育てられなかったという。母は形が悪くなるからといって母乳では育てなかったらしい。

 そうして、親子の関係も表面的になったのだろうか。それが感情が不要な風俗に依存することにつながるのか。

 どうやら、思い通りにならない妻というのも、伏線としてはあるようだ。複雑ですなあ

 奥田先生に、演じているから満足していない、気持と行動が繋がっていないからと言われて、答えが分かったようだった高階から電話があり、再診を希望された。急ぎらしい。

 どうやら、こころの鎧を外した途端、風俗のひとりの女性を本気で好きになったらしい。

 運悪く、妻にはラインでのやり取りを見られてしまい、妻子は家を出て行ったという。

 妻子はもうどうでもいいから、その女の子が気になるという高階に、院長が言う。

もしかしたら、その女性は、あなたの娘さんの未来の姿かもしれませんよ

どういう意味ですか

その女性はきっと、父親の愛情を失った心の傷を抱えているのだと思います。あなたが、家庭を崩壊させてしまったら、あなたの娘さんも、同じような寂しさを抱え込むかも知れません

はっきり言いましょう。どんなに頑張っても、あなたが、その女性を救うことはできないと思います。でも、今決心すれば、ご自分の娘さんを救えるかもしれない。あなたの娘さんが、その女性だと思ったらどうですか

  なかなか、みごとな説得をするものである。

 患者の話と並行して、美夢自身の葛藤なども描かれている。美夢の父親は他に女の人ができて、美夢が小学四年生のときに出て行ったらしい。その父からクリニックに電話があったが、美夢は切ってしまっていた。母は再婚している。院長には見抜かれて話してしまった。

 美夢はクリニックで働きながら、自分自身の問題とも向き合っていかねばならない。

 さて、私にとっての安全基地は、どこにあるのだろうか。

あなたの人生、逆転させます 新米療法士・美夢のメンタルクリニック日誌 [ 小笠原慧 ]

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