イントロダクション
駐在さん夫婦が、ある村の小さな事件を解決するらしいと手に取ったものの、「あの日に帰りたい」とは、またどういったことなのだろう。
プロローグによれば、「昭和五十年四月五日 土曜日。神奈川県松宮警察署雉子宮駐在所。今日からここが、私と周平さんの新しい住居と職場です。」で始まる。
これは、駐在さんの駐在日誌ではなく、その妻の簑島花(わたし)の日記を読んでいるという想定らしい。
たしかに、いまから四十八年前なら、なつかしい気もするし、駐在さんのいる村の話なら、ほのぼのしていて、大人になって都会に移り住んだ人々ならば、その日に帰りたいと思うのかもしれない。
小学校の図書館の分館が併設されていたり、犬や猫もいたりして、のんびりしている感じの駐在所は、住み心地もよさそうだ。警察官としてではなく、脱サラして農家を始める人として移住してみたいような感じになる。表紙の絵もほのぼのとしている。
さて、どれどれ・・・。
あらすじ(四話それぞれの冒頭)
冬 日曜日の雪は、落とし物
推理小説ファンが期待するような事件ではない。事件を解くというよりも村の問題やお困りごとを解決するといった方がいいのかもしれない。そしてその解決方法は人に優しい。
しばらく、花さんと周平さんの平凡で幸せそうな話が綴られる。普通の小説のような感じ。
ある日、いつも併設されている図書館に来ている小学生の美千子ちゃんが、駐在所に駆け込んできます。
「雪だるまが、消えちゃったんです」!!
ほのぼのとした事件が起こりました。
駐在の周平さんがやさしく解決します。
春 木曜日の滝は、逃亡者
駐在さんの妻の花さんは、元々外科医ですが、ある事件で手指がうまく動かなくなりました。
村でけが人が出ても素人並みの手当てしかできないのが歯がゆそうです。
でも、平和な村での生活に満足しているようです。
事件ではないが、困りごとの相談はよくあり、雉子神宮社の神主さんのお姉さんが定年で村に戻ってきて、変なことをやっているらしい。
それは、神社ではなくて、どちらかと言えば寺の領域である死者や霊魂に関することに手を出しているらしい。いわゆるイタコ(霊能力者)だという。
ああ、面倒な話になってきたぞ・・・。
網戸の修理をしていたとき、その事件はやってきました。
「花さん、権現滝で投身自殺があった!」
権現滝は、その構造と水流の関係から一度落ちたら誰も(何も)水面には上って来ないと言われているのです。
そして、その目撃者は、「投身自殺したのは、(政治犯の)作島均だよ。」と言った。
なぜ、10年も前の逃走犯が、いまさら自殺する必要があるのか?
駐在さん(簑島周平巡査部長)が言う「はっきりと目撃者がいる以上は、遺体が上がらなくても、ましてやそういう事象(一度落ちたら・・・)がはっきりと確認されている権現滝のような場所なら、被疑者死亡となる。でなきゃ、目撃者を偽証証言で逮捕することになるが、そんなことはできないから。そこまで考えてやったのなら完璧なんだ。」
簑島周平巡査部長は、作島均の息子がこの村に移住していることを突き止めた。
駐在さんの大岡裁きが披露される。
夏 土曜日の涙は、霊能者
春に雉子神宮社の神主さんのお姉さん品川五月さんが村に戻ってきて、イタコをやっているという話があった。
そして、とうとう喧嘩まがいの小事件が起こってしまったのである。
五月さんに見てもらっていた人が、言われたことに腹を立てて、五月さんに殴りかかったのである。
連絡を受けた駐在さんが駆け付けたのだが、五月さんは大したことはないから警察沙汰にはしないでと言う。
もとよりそんなつもりは無いが、駐在さんは五月さんの様子に病のようなものを感じ取っていた。
事情聴取ということで、関係者にいろいろ話を聞くうちに、品川五月さんは三きょうだいではなくて、実は一番上のお兄さんがいたことが分かった。
駐在さんは、そのお兄さんの事故死と、五月さんが帰ってきてイタコをしていることから何かに気づいたようである。
そしてその謎を、駐在さんは事情聴取によって解きほぐしていくのである。
秋 火曜日の愛は、銃弾
雉子神宮社の娘の早稲さんと、雉子宮山小屋の圭吾さんが結婚式を挙げるというめでたいお話で始まる。
村の結婚式には、新婦の家と新郎の家を行列して練り歩く儀式があるという。
その前に、新居として駐在所の二階の空いている四部屋を借りるということになり、結婚前に引っ越してしまうという、なんとも賑やかしく、楽しい展開だ。
その練り歩きのときに駐在さんが見かけたカップルは、実はカップルではなくて、義理の姉の田辺典子さんと義理の弟の田辺淳さんだという。
駐在さんの取材によれば、典子の夫の篤は、酒癖も悪いうえに、むかし典子さんを弟から奪ったのだという。しかも三人いっしょに暮らしているとは、普通なら考えられない状況だが・・・。
事件がおこる気配満載である。
そして、猟銃立てこもり事件は起きてしまった。
駐在さんが駆け付けると、兄の篤が猟銃を持ち、弟の淳をぶっ殺して、土地は全部俺のものにする!などと言って叫んでいる。
そばには、弟の淳、兄の妻の典子さんに、スナックのマリナさん。
そのとき、射撃の名手、簑島周平巡査部長(駐在さん)の拳銃が火を噴いた!
小路幸也さんのプロフィール
一九六一年、北海道生まれ。二〇〇三年、『空を見上げる古い歌を口ずさむ pulp-town fiction』でメフィスト賞を受賞しデビュー。「東京バンドワゴン」シリーズをはじめ著作多数。近著に『テレビ探偵』『春は始まりのうた マイ・ディア・ポリスマン』『花咲小路三丁目北角のすばるちゃん』などがある。魅力的な登場人物と温かな筆致で、読者からの熱い支持を得ている。 (本の情報より抜粋)
〆