『脈動』 今野敏 書評・感想
物語・共感
隠蔽捜査のような警察小説のつもりで読み始めるが、趣が全く違うことに気づいたときには遅かった。だが、魔界的な話は嫌いではないため読みつづけられたが、通常の犯罪者を追い詰めるストーリーではないので、「なにこれ」となる読者がいてもやむを得ない。
警視庁本部庁舎で、 「非違行為」と警察内部で称している不祥事によって警察は崩壊寸前であったため、巡査部長・富野は“亡者祓い”を招集する。
「警視庁本部が患っているということですか?」
警察官による暴力や淫らな行為――警視庁内で「非違行為」が相次ぐ。
常時ではあり得ない不祥事! 事態の悪化を恐れた警視庁生活安全部少年事件課の巡査部長・富野輝彦はお祓い師・鬼龍光一に助けを求める。
鬼龍によれば、警視庁を守る結界が破られており、いずれ警察組織が崩壊するという。
一方、富野は小松川署で傷害事件を起こした少年の送検に立ち合い、半グレ集団による少女売春の情報をつかむ。
一見無関係なこの二つの出来事は、やがて不思議と絡み合っていく。
警察小説でありながら陰陽師的ミステリが大きく融合した、新境地の物語と言えよう。
社会背景
結界と三種の神器の話が出てくる。どうやらこの物語では、この三種の神器が破壊されたため、警視庁の結界が崩れ、警察官による「非違行為」(注1)が頻発するようになったということらしい。
鬼門、裏鬼門、結界には水を使うとか、実際に水は無いが、「溜池」という土地名に気が残っているから結界の要素になっているとか、そっちの「ブラタモリ」をやっても面白いかも知れない。
うしとら:艮(丑寅)は東北の方角、ひつじさる:坤は西南の方向
(ワープロで打つと、本当に艮と坤が表示されて、びっくり)
それは、西日本と東日本をあらわす。
戊辰戦争によって、日本は戦争をするようになり、瓦解(徳川幕府の崩壊)によっても日本はおかしくなった。
戊辰戦争では東北(東日本)が戦場となり、凄まじい犠牲者がでた。
だから、会津をはじめ、東北の人々は未だに薩摩・長州(西日本)を恨んでいる。
そして、東北の人々(本書では、『ゴンの党』と呼ばれている)にとって、警視庁こそが、薩摩・長州の象徴だという。
『警察庁のことを、サツチョウって呼ぶだろう。』(なるほど・・・薩・長と掛けて・・・。)
とまあ、本当か作者の創作かは分からないが、面白い話が聞けた。
つまり、そのような過去からの因縁が深く絡んでいるということらしい。
(注1)非違行為(ヒイコウイ)とは:
・教職員の違法行為や全体の奉仕者としてふさわしくない非行等
・警察官の違法行為は、本小説の例のとおり(暴力、強制性交など)
著者プロフィール
1955(昭和30)年北海道生れ。
上智大学在学中の1978年に「怪物が街にやってくる」で問題小説新人賞を受賞。レコード会社勤務を経て、執筆に専念する。2006(平成18)年、『隠蔽捜査』で吉川英治文学新人賞を、2008年、『果断―隠蔽捜査2―』で山本周五郎賞と日本推理作家協会賞を受賞。
心に残ることば
P157 「人脈が権力を生むんだよ。」
➩タイトルの「脈動」と関係があるのだろうか。言っていることは、その通りだと思う。
P189 「本当に物置ですね」「そう思うなら、もっと片づけたらどうだ?」
➩いいですねえ。わたしも若者にそう言ってみたい。怖いから言いませんが。。。
P206 「俺たちは、非行少女とはいわない。非行少年というんだ」
➩スチュワーデスとキャビンアテンダントぐらいのことだろうか?
展開の面白さ、見どころ
警察小説に、陰陽師やお祓いの要素を盛り込んだ点は、読者の趣味に合えば、違うジャンルの本を読んだと思えばいい。ちゃんと手順通りに捜査はするので、警察官の動きは警察小説である。(本部と所轄の話はありますし。)
また、犯人との格闘シーンは、柔道などの護身術ではなく、「祓う」という行為、「祝詞」といった呪文のような言葉で相手を倒していくのは、ちょっと漫画(鬼滅の刃の)のようなシーンの爽快感がある。
だれが、警視庁の規律を乱した犯人で、破られた結界は修復できたのかどうか、などは最後のクライマックスまで分からないからつい夜更けまで読んでしまった。(明日も仕事!)
書籍・著者情報
・形式 単行本
・出版社 株式会社KADOKAWA
・ページ数 351頁
・著者 今野敏
・初版 2023年6月28日
〆