まえがき
目覚めると、サチとワタルの二人きりとなっていた。
しかも、二人の部屋はくっついていて、サチはワタルの部屋を通らないとどこにも行けない。
外には誰もおらず、街は静まり返っている。
そして不意に現れた管理人の女性サカキに、ここは生と死の「狭間の世界」だと告げられる。
二人の肉体は、今まさに死を迎えようとしているらしい。
しばらくして、ふつうなら「死」を迎えるはずだったのだが、現実世界へ戻る選択ができると言う。
ただし、残酷な選択が待っていた。
我々は、何のために生きるのか。
自分の、そして他人の生と死について考えさせられるちょっとウルっとくる物語である。
あらすじと書評と感想
ストーリーは、「はじめに」に書いた流れで進む。
伊達亘 → 狭間の世界 → 久遠幸 の順で、生前のそれぞれの若者が死に直面するまでの物語が綴られる。
狭間の世界(1) 005
朝目覚めると、他人同士?のはずの伊達恒お久遠幸の部屋が繋がっていたとか、恒の部屋が幸の家に挟まれたというか、そんな状態になっているらしい。すでにファンタジーが始まっている。
伊達恒 傲慢 pride 015
だてわたる、恒は都内の美容室「シャローム」三号店のスタイリスト。客は瀬戸実花。
彼と別れたばかりの実花にも自然に接してくれる恒であった。
狭間の世界(2) 022
この世界には誰もいないようだ。なぜ?めちゃくちゃ世界だが、電気や水道は普通に使えるらしい。都合のいい設定だ。
カレーを自炊することになり、幸が慣れない包丁で指を切った。不思議なことに、あまり血は出ず、しばらくすると傷口がふさがった。えっ?
久遠幸 傲慢 pride 036
くどうさち、幸はオフィスレディ。又井義也は20時を過ぎて残業。久遠幸も。
部長はコネ入社の幸を気遣って早く帰れといい、又井は仕事が増えた。
瀬戸実花は、又井の同僚で主任。久遠の父は、この会社の顧問弁護士。
瀬戸実花が言う「庶民は実績出して上を黙らせる」
かっこいいけど、できるのかな。。。
狭間の世界(3) 045
恒が幸に言う
「ご飯、食べない?」
「もし、明日、世界がこのままだったら、」
いきなり、核心に近いセリフが放たれた、のか?
伊達恒 憤怒 wrath 055
伊達奈緒美、誰だ?天の川町に名前を変えた温泉リゾート施設で働く。
彼女は病気の夫を抱えながら、リゾート施設で働いている。もう精神的にも限界に近い。
恒(ワタル)の母だと気づく。早く帰ってあげないと、お母さん持たないよ!と思う読者の私。
狭間の世界(4) 061
狭間の世界の管理人の「サカキ」さんが現れて、あなたたちは、いままさに死のうとしているところであると告げられた。実感がないのでショックはない。忙しいサカキさんは説明が終わると出て行った。好きなだけいてもいい、と言われてもどうしたらいいのか分からない二人だった。
久遠幸 憤怒 wrath 069
久遠まりや、幸の母である。また母か、と読者の私は思う。その母が心待ちにしていた年末年始のハワイ旅行に娘の幸は勤務のため行かないという。母は娘の会社の顧問弁護士である夫に娘の上司に口添えを頼もうとして、娘と大喧嘩になってしまった。
狭間の世界(5) 075
なんてことだ、部屋から15分くらい歩く。焼き鳥屋の前で、焼き鳥が食べたいと願えば、それはかなえられた。そしてもう少し行くと、黒い闇に突き当たる。そのまま進めば落ちそうだ。これが死ということか。
伊達恒 暴食 gluttony 086
焼き鳥屋の主人伊藤勇作は、恒に焼き鳥を出す。常連だったが、恒は大晦日に地方の実家に帰るという。貴重な常連客だった。
狭間の世界(6) 095
世界の果てを見た帰り、それぞれの身の上というか、思い出の場所などの話をして、恒の実家の地名「天の川町」というのを聞いた幸は、「わたし、そこへ行こうとしていたと思います。」とか言った!?
久遠幸 暴食 gluttony 105
幸は親友の田丸杏奈とカフェでランチ。ずっと親の言いなりに生きてきた。このままでいいのかと親友に相談し、一人旅でもしてみたら、と言われて真に受けているようだ。
狭間の世界(7) 115
幸が一人で外出していると、狭間の世界の管理人であるサカキさんが現れて、若い二人の恋の進行を聞き出そうとするが、死にそうな二人はそんな感じじゃないらしい。サカキさんは残酷な話があると言いだした。
伊達恒 嫉妬 envy 129
ヘアサロン「シャローム」のオーナー江波亜門は、忘年会が大好きだが、きょうはワタルの送別会も兼ねていて、いつもとノリが違った。新しい店を任せようとしていたのだが、家庭の事情には抗えず。
狭間の世界(8) 137
サカキさんが言う残酷な話をワタルとサチの二人は聞いた。手違い、魂の総量は決まっている、ひとりだけ生き返れる、どうするかを選択して。そう簡単には決まらないよ。
久遠幸 嫉妬 envy 148
年末、幸は先輩の実花とクライアントとの交渉に参加し、貢献した。
二人ともクリスマスのカップルにむかつく。幸は実花先輩にどうやって人生のレールからはみ出せたのか聞いた。それは「天の川町」で星を見たからと言った。
狭間の世界(9)
サカキさんは、赤と黒のカードと封筒をそれぞれに置いて行った。赤か黒のカードを選ばなければならない。赤は生、黒は死だ。ワタルは黒にすると宣言した。サチは赤を取ればいいだけだが、納得がいかない。
伊達恒 怠惰 sloth 170
辞めた美容室の後輩の宇治谷跳人を自宅に招き、引っ越しの手伝いをしてもらう。
狭間の世界(10) 180
二人はまだ生きるか死ぬか悩んでいた。ワタルが気がつくとサチは居なくなっていた。
ひとりで暗闇に向ったらしい。それは死を意味する。ようやくサチを見つけるが、髪の毛がすでに闇に捕まっていた。打つ手がないと思われたとき、ワタルが美容室で使っていたシザースの道具が現れた。得意のシザース捌きでサチの髪を切り、なんとか闇に食われるのを阻止したのだった。
久遠幸 怠惰 sloth 202
旅行プランナーの眞瀬沙羅は、突然訪れた幸の「きれいな星がみたい」という大雑把な希望に対し、奇跡的に1つの案件を紹介することができた。「天の川町」の宿だった。
狭間の世界(11) 209
髪をきられた幸のヘアスタイルは大変なことになったんで、翌日亘がヘアカットすることになった。そのときに幸はワタルのこと、「なんでスタイリストを辞めたのか」を聞いた。そして髪はバッサリ切ることにした。
伊達恒 色欲 lust 221
眞瀬沙羅は、伊達亘の部屋を訪れた。生きているときの久遠幸の旅行申し込みを裁いたあとかな。おお、この二人は付き合っていたのか?沙羅は昔家出をして亘の部屋にお世話になってから、たまに会っていたのだ。そして、亘が実家に帰る前に飲みに来たのだ。沙羅はイタズラ心から、実家に帰る亘と幸を同じ飛行機の隣の席にブッキングした。
狭間の世界(12) 230
髪を切った幸は気分が上がって、亘にデートしようという。水族館やショッピングを楽しんで、いつもの焼き鳥屋で飲んだ。サチは驚くほど酒に強く、ワタルはべろべろになった。
そして、丘の上の名もなき公園の遊具の上で寝ころんだ。願えば、満点の星空が出現した。
二人とも魂が肉体から離れるのを拒否しているように感じた。
久遠幸 色欲 lust 245
久遠譲くどうじょう、は妻とハワイへ二人で行くことになり、留守番の娘のことが心配でしかたがない。妻の準備は1時間も遅れている。飛行機に間に合うのか。そういう久遠譲は、若い子と不倫を二年続けていた。もう妻には触れたくないと思っている。ようやく妻の準備ができた。
狭間の世界(13) 251
久遠幸は、赤のカードを封筒に入れて、封をした。
酔って寝ている伊達亘に近づこうとして起こしてしまい、彼の封筒にちゃんと赤いカードが入っているかどうかは確かめられなかった。(もしかして、と読者の私は思うが。。。)
つづきの章タイトルは以下の通り。ネタバレするのであらすじはここまで。
伊達恒 貪欲 greed 262
狭間の世界(14) 273
久遠幸 貪欲 greed 289
狭間の世界(15) 296
伊達恒 救済 salvation 300
狭間の世界(16) 307
久遠幸 救済 salvation 317
登場人物
今回はあまりにも少ないので省略します。文中で十分分かる。
幸と亘とその関係者数人。
行成薫さんのプロフィール
1979年生まれ。宮城県仙台市出身。東北学院大学教養学部卒業。2012年「名も無き世界のエンドロール」(「マチルダ」改題)で第25回小説すばる新人賞を受賞。本作は21年に岩田剛典と新田真剣佑の共演で映画化された。同年『本日のメニューは。』で第2回宮崎本大賞を受賞。著書に『僕らだって扉くらい開けられる』『彩無き世界のノスタルジア』『稲荷町グルメロード』『立ち上がれ、何度でも』などがある。(WEB上の紹介文より) 〆