著者 佐藤青南 あらすじ・感想
第一話 YESか脳か
警視庁捜査一課巡査部長で取調官の女性が主役である。ふつうは巡査部長クラスでは取調べはできないらしいが、彼女はその能力を高く買われての抜擢ということらしい。
超美人というところまでは、まあよくできた設定であると思いつつも、この一話目で楯岡絵麻のファンになってしまうという、我ながら単細胞的な落ちであった。
彼女が使う、行動心理学の観察によって、容疑者がものを言わなくても、被害者の居場所を突き止めてしまうのである。こんなことが実際にできれば驚きである。まるでメンタリストのDAIGOを見ているかのようでもあった。
第二話 近くて遠いディスタンス
「言葉で真実を語らなくとも、仕草が真実を語り始める」
放火実行犯で歯科医の福永40歳は、自称28歳、実は31歳?の美人刑事にしてやられるのである。結論が分かっていても面白い。勧善懲悪の時代劇さながらに事件は解決する。そのスカッとするところが、読者のストレス解消になる。
結論が分かっていても面白い。なぜなら、行動心理学と容疑者の仕草が想定と一致しないときがあるから。その理由を探るのが、楯岡絵麻の腕の見せ所である。
そして、謎が解けたとき、「ほう」と、読者は感心するのである。
今回は、パーソナルスペースの男女間差が引き起こしたといえそうだ。
男のパーソナルスペースは広く、女性のパーソナルスペースは狭い。ゆえに男は女性が自分のパーソナルスペースに入ってくると好意があると勘違いする。女性にとっては、まだ自分のパーソナルスペースが侵されていないのである。注意しよう(-_-;)。
事件後の居酒屋のシーンで、楯岡絵麻が何故刑事になったのか。悲しい思い出が語られた。
第三話 私はなんでも知っている
女の名前は手嶋奈緒美、38歳、青梅市の小さな喫茶店オーナーである。
池袋で起こった殺人事件の重要参考人である。
占いもよく当たるという。
いつものように、ちょっと遅れる楯岡絵麻。取調室では、さっそく絵麻が占いをお願いしていた。
行動心理学に基づくノンバーバル理論。
平常時の言動を把握し、なだめ行動を選り分けるためのサンプリングを行った。
三日前、池袋に住む山岡高臣さんの絞殺死体が発見され、三日後の死を予言した手嶋奈緒美が容疑者として浮かんだ。
そう、そして占い師と信者の関係が明らかになったとき、マインドコントロールについての方向性の新たな知見を得ることになった。
第四話 名優は誰だ
今度の容疑者は、楯岡絵麻と同じくらいの美女俳優である。
西野刑事のにやつく姿がまた・・・。
城之内紗江、本名は田中紗江子は地味な名前である。
容疑は、人気俳優で夫の内嶋貴弘の殺害容疑。
本人は自白しているが、楯岡絵麻はそうはみていない。
紗江子は、夫の浮気が我慢ならず、殺したという。
凶器は石だと言うが、どうやって帰ったかは記憶にないという。
もうひとりの容疑者は、新しい愛人の木戸真理。
そして、その大脳辺縁系に問いかけようとした、その時、刑事が乗り込んできて、
内嶋紗江子が自主してきたという。
再度、紗江子の取り調べ。
楯岡絵麻は、名女優を上まわる巧みな話術で追い込んでゆく。
目撃証言において、社会的身分が高い人間は、相手の身長まで低く見積もる傾向があるという調査結果も引用した。実際にこのような錯覚があるとすれば、警察もこの調査悔過を念頭において調査してほしい。見たという証人が重用されるが、その錯覚は偽証と変わらない結果をもたらすのだから、証言する方にも大きな責任が生じることを肝に銘じるべきだろう。
事件解決後に後輩の西野刑事と行った居酒屋のカウンターで荒れていた。もうすぐ時効となる十五年前の小平市女性教師、栗原裕子の強姦殺人事件のことを考えていた。あのとき心理学の知識があれば、自分の担任だったその女性を救えたはずだと。不良だった絵麻をクリスマスの日に家に呼んでくれた。その場にいた彼氏(犯人)の涼しい顔を思い出して荒れていたのだろう。楯岡絵麻が刑事になった理由と犯人逮捕の目的が遠ざかる・・・。
第五話 奇麗な薔薇は棘だらけ
西野刑事が、医者の婚活パーティーに参加して、香澄という女性と仲良くなったらしい。
楯岡絵麻が、相手はあなたを医者だと思ってるのだから、本当のことを言って別れなさいというアドバイスをしても、浮ついた西野刑事の耳には届かない。
さて、取調室にいたのは、その女、矢田部香澄だ。
結婚詐欺の容疑者として・・・。いや、加えて複数殺人の容疑者として。
そして、取り調べには、行方が分からなくなっている後輩の西野刑事の生死がかかっていた。
楯岡絵麻の質問に対する反応があまりない。
いろいろ質問して、抗うつ剤を飲んでいたことを突き止めた。薬を飲むと心理学で使える反応が出にくくなるという。犯人は期せずして楯岡絵麻を翻弄していたのである。
楯岡絵麻は、上半身の反応観察を、大脳辺縁系の反応を見ることにした。
そして、地図を使って、西野刑事の拉致先を突き止めた!
はず、だった。そこからは別の男の死体が発見され、西野刑事の指紋が見つかり、西野刑事は容疑者となったのだ。はめられた!
だが、もう遅い。
西野は、矢田部澄香に、楯岡絵麻がどんな取り調べをするかまで話してしまったのだ。恋愛によって、こちらの切り札が取られてしまった以上、西野刑事は殺人犯にされても自業自得なのか・・・。
絶望の中、楯岡絵麻は、矢田部澄香が足を交錯しているのを見て、サイコパスにしては従属的な態度に、共犯者がいると確信した。
著者プロフィール
1975年、長崎県生まれ。熊本大学法学部を除籍後、上京してミュージシャンに。第9回『このミステリーがすごい!』大賞優秀賞を受賞し、『ある少女にまつわる殺人の告白』(宝島社文庫)にて2011年デビュー。他の著書に『消防女子!! 女性消防士・高柳蘭の誕生』(宝島社)がある。(本書の情報より)
書籍・著者情報
・形式 文庫本
・出版社 株式会社 宝島社
・ページ数 360頁
・著者 佐藤青南
・発行 2012年11月20日
〆