まえがき
【登場人物】
・不二子:皇后さま、この本の主人公(たぶん)
・天皇陛下:皇后さまの夫
・舞子:皇后さまの娘
・三浦理香子:外務省から出向している女官、「ミセス・ネバ―」
・ジャスミン:侍女として皇后さまが採用、日米ハーフ、「ミセス・OK」
・清仁さま
・ほか
あらすじのような(感想・つぶやき含む)
少女でもなく老婆でもなく
私の名はスノードロップ
(なんやこれ?)
わたしはパラレルワールドにいるあなた。
(えっ、鏡に向かって喋ってるんかい!)
化粧すれば、なけなしの少女が出てくるらしい。
私が老いたのではありません。この世界が老い、・・・
神話の時代から続く世界最古のファミリーの一員になった時から、標準時間とは別の時間の下で暮らすことになりましたが、・・・
やはり、雅子さまのお話かぁ。。。
ハートに火をつける
主治医の勧めに従っているわけではないけれど、週に一度、森に散歩に出かけます。
おお、やはり、あの病気で公務に出られなくなった雅子さまっぽい。。。
森の中にある邸にある17の部屋すべてにろうそくで火を灯し、死者を集めて真夜中の園遊会がはじまる。そうすると、自分のハートに火がつくという。
この世に女と生まれた者の試練
不二子さま曰く、
・・・夜はいつも本を読みます。まだ娘の舞子が小さかった頃、様々な物語を読み聞かせました・・・
ということは、この舞子さんを愛子さまと考えると分かり易いかな。
そして、つぎのような感想が語られる。
あまり深く考えないまま舞子に読み聞かせた童話は、どれも女性が辿る運命に対する心の準備を促すばかりで、・・・・。
たとえば、人魚姫の話を持ち出して、
踏んだり蹴ったりの仕打ちに耐え、それでも王子を恨まず、(裏切った)彼の幸福をそよ風となって願いなさい、とアンデルセン・・・あまりの過酷さに少女時代の私は思わず笑ってしまいました。
読者の私も、少女時代の皇后さまが、しっかりした方なので、ほっとしながら噴き出していました。
つぎは、白雪姫です。
さて、少女時代の皇后さまは、この童話をお読みになったどう思われたのでしょうか。少し楽しくなってきました。
「自分が世界で一番美しい」という継母である王妃の犠牲になった・・・(継母より)「美しい」という以外、何も罪を犯していませんが、何度も暗殺の危機に晒される、そして死体となった白雪姫をそれでもいいともらい受けた王子
についての皇后さまの感想がこれ、
王妃の嫉妬のあまりの深さと「死体でもいい」といった王子の不気味さには呆れます・・・
と、ここで不覚にもわたしはまた、噴き出してしまいました。(なんやこれは!)
無抵抗の受身の姿勢で待ち続けていれば、幸福は必ず訪れる・・・という教訓でしょうか?
すべての元凶である鏡を割るべきだったと少女時代の私は思ったのでした。
(おお、さすがしっかりものの皇后さま!)
さらに「雪の女王」
この物語についての批判は無く、少女時代の皇后さまは、この物語は好きだったようです。
娘の舞子さんの話になります。恋人はいないのか、自分たちを将来サポートしてくれるのか分かりませんが、自分の対立場はよく理解しているようです。とは言っても「政府の意向」に従うのではなく、自分で何かをやってくれそうだと期待しています。
死神の自殺願望
週一回、東大病院から往診に来る非常勤の石井先生という方がいるようです。
三十八歳独身で、恋人もいないというから、六割以上の確率でゲイでしょう。
不二子さまは、なんちゅうこと考えてるんや!
このお医者さんをからかうのが好きなようです。
私が頭の中で飼っている不満分子たち。私を乗っ取って、反乱を起こそうとしているの。
まったく、こまったガキ(;^ω^)、いや不二子さまです。
このあと「自殺願望」についての話がありました。~省略~
ミセス・ネバ―とミス・OK
皇后さまは、いろいろと行動制約があり、ストレスも溜まると思います。
皇后さまを監視して、なんでも決して認めない外務省から出向している女官の三浦理香子さんを「ミセス・ネバ―」と名付けました。
そんな皇后さまも、侍女を味方に付けて対抗します。
採用したその侍女のジャスミンを「ミス・OK」と名付けました。
マイ・どこでもドア
ジャスミンは、皇后さまが外界と交信するための道具と環境をクローゼット部屋に準備してくれました。
そして、他の部屋には盗聴器があることまで報告してくれたのです。
花言葉は『希望』『慰め』
クローゼットの中に入ると、皇后さまはノーバディになれました。
そして、ハンドルネームは好きな花の名前の「スノードロップ」としました。
花言葉は、タイトルのとおり『希望』『慰め』。
そして、最初の交信者は、ジャスミンを推薦してくれた加藤淳教授でした。
スノードロップ様は誰よりも傷ついた者の庇護者にして、権力の横暴に晒される私どもの守護者であらせられるのです。私どもの望みが叶えられる世界こそがスノードロップ様が君臨あそばされるべきもうひとつの国なのでございます。
なんか、ジェンダー論者の国でも創ろうというような感じが漂ってきたぞー!
皇后さま自身も、少し警戒モードになりました。
酔いは万能
陛下もストレスが溜まっているようだ。
皇后とふたりで、夜のコンビニへ、ジャスミンを伴ってお出かけされた。
(実際には、そんなこと許可されないだろう?)
陛下は缶チューハイを選び、皇后はレッドブルを選び(レッドブル!なんて皇后さまの選択枝にあるのか!)、夜空の星を見上げて何か呟いていた。
机上世界一周
「残りの人生を満喫する三つの心得」
・何か新しい試みを始める。
・今まで行ったことのない場所をランダムに選び、そこに行ってみる。
・新しい出会いを積極的に求める。
と、ネットで調べたところで、皇后さまは勝手に旅行などできないから、机上でグーグルアースを楽しむのです。
行商天皇
一人の行商人が全国各地を旅して回るシリーズがあり、全部で四十八本・・・
って、寅さんのことか。。。
『すっかり癖になってしまいました。』 とさ。
昭和天皇のお気持ちについての考察や平成天皇の全国行脚こそが、皇居滞在という軟禁状態から解放されて少しだけ自由になれる瞬間だったのかも知れないという考察も、我々が自由であることのありがたさを感じることになりました。
白村江の戦い
天皇家の元旦の忙しさは、テレビなどでも伺い知ることができます。
昭和天皇は、終戦の翌年に吉田茂らを集めて白村江の戦を引き合いに出し、長い皇族の歴史を常に認識していることに驚かれました。
そういう皇后さま自身も、数々の慰霊の儀式に参列されていることを振り返りつつ、『核のない平和な世界』のために何かできないのかと、腐心されているようでした。
死者は墓地にはいない
(どこかで聞いたうたのタイトルのようでもあります。)
六百五十年や二二〇〇万年の時差を挟んで天体と向き合う時は、異なる時空が交差します。寿命がわずか九十年の私たちはその瞬間だけ、地球の時間軸を忘れると同時に、自分が抱え込んだ悩みが本当にちっぽけなものだと思えてきます。
皇居を訪れる物理の先生は言いました。
私たちが生きている物理的世界は量子が作り出した仮想現実に過ぎないといった方がいいかもしれません。現在・過去・未来が同じ空間に並んでいたり、死者が蘇ったりもする。理論上、量子はいかなる可能世界も作り出すことができるのです。
そのように説明した先生は、ついに「パラレルワールド」の話もします。
条件付きですが、可能といえると思います。
と、話が進み、
死者は墓地にはいません。墓は石の名前に過ぎず、彼らはパラレルワールドを徘徊しているのです。
(ということは、物理学者という人たちは、葬儀や墓参りなどはナンセンスだと思っているのでしょうか。)
そして、不二子さまは、パラレルワールドにいる自分にメッセージを送りました。
(やはり、皇后さまは、お疲れのようです。)
プリンセス・レイジ―
ここには、自分が男子を生む機械として扱われていた様子が掲載されています。
それ以上は記載に及びません。
男尊女卑教
やがて、弟君と桐子さんの間に男子が誕生して、女性天皇を認める皇室典範の改正論が沈静化したのは皮肉なことです。
東宮としては、さらにつらい時期が続くことになりました。
(その苦しい胸のうちが語られます。まるで本物の皇后さまの気持ちを代弁しているようで、この本は、校閲に引っ掛からないのかとさえ思いましたが、フィクションであるという体ですから、問題ないのかも知れません。)
七人の侍
国民のために奮闘してくれている国会議員は、全700名のうち、たったの7名であるという説があるようです。
(本書は政府批判の書かも知れません。)
癒しの帝
おそらく、私は死ぬまで社会復帰できない、と諦めています。「社会復帰って、君は囚人じゃないんだから」と夫は笑いますが、私は限りなく囚人に近い病人だと自覚しています。
このように、不二子さまは皇后さまのお気持ちを代弁されているかのような、リアルさがあります。
晩年の夢
王室が無くなる日のことまで深慮して、オランダやイギリスなどの王室と王室外交されているらしい。
ヨーロッパの王室の方は、スイスやイギリスへの亡命を考えているという。自国には住めない理由は何だろう。
いずれにしても、優雅な晩年と並行して、厳しい晩年も覚悟されているとのことである。
不愉快な内奏
夫の誕生日に総理が押しかけてくるという。
何がしたいのか。もちろん、意味なく陛下の誕生日の晩餐にお招きいただきたいとう総理などおらぬであろう。
うっかり外交ミスなど指摘したものだから、総理も狸、それではお手並み拝見と仕事を押し付けられてしまう皇后さまでした。
自殺は他殺だ
頼りにしていた国会議員、七人の侍のひとり、伊能篤議員がホテルの浴槽で溺死した。
『俺がもし死んだら、他殺だと思ってくれ』とかねがね言っていたそうだが、事故死かも知れない。
しかし、その件は単純な自殺ということで処理された。
無垢な者
死者はいつまでも生きている者たちの心に留まるのは、彼らが身近にいる証らしい。
生きているあいだ、ヒトは何らかの罪を犯すもの。翻って「死者は裏切らない」のかも知れません。
生きている者たちは、死体を体よく黄泉の国に追いやって、関わりを持とうとしないこと自体が偽善です。
二度殺されませんように
『伊能議員の存在が忘れ去られ、黙殺されるとき、彼は二度死ぬことになるのです。』
東宮家の味方が、一人減ってしまった。
おカネと権力に執着する人々はしぶとく、公益と正義のために生きる人々は儚い。
若い頃は理想も倫理も持っていたはずの人も、朱に交わって赤くなったのでしょう。
清廉潔白な政治家は、悪事を暴こうとすれば今回の伊能議員のように殺されてしまうのか。
どこまでやれるか試してみよう。
人は現実だけでは生きられない
伊能議員が自殺したと報じられる一方で、「ダークネット」には、いろいろな意見、恨み、政府批判が溢れていた。
たとえば、
自殺させるために娘を育てたわけじゃない。善を教えたのが悪かったのか?・・・
こんなのを読むと、芸能界のあの元夫婦の顔が浮かんでしまう。
不二子さまは、「この世界が嫌なら自分で変えるしかない。」と決意されたようです。
復讐します
さて、ここからが、皇室で自由とアイデンティティをも奪われてしまったプリンセスの復讐が始まります。
つづきは、本のなかで。。。
読み終えて
島田雅彦さんが、あとがきを書かれています。
『「良心=美しい魂」はいかなる権力にも服従しない』 これがタイトルなのか。
そして、この小説の発想の一端に雅子妃の存在もあったな、と思わされる解説がありました。
私は、ここで登場した不二子さまには、前段の活躍の小説があったことなど知らずに、「スノードロップ」を読みました。
その作品は、『無限カノン』三部作(「彗星の住人」「美しい魂」「豊饒の海」)らしいです。
内容としては、現在の社会風潮、政府の態度に加え、皇室の不自由さや「天皇の一人の人間としての生き方」のようなものが感じられるものでした。
定められた状況下で「どう生きるか」を考えさせられた気もします。
島田雅彦さんのプロフィール
1961年3月13日東京都生まれ。東京外国語大学外国語学部ロシア語学科卒業。小説家。法政大学国際文化学部教授。83年、大学在学中に『海燕』掲載の『優しいサヨクのための嬉遊曲』でデビューし、芥川賞候補作となる。候補6度は最多記録。小説に『夢遊王国のための音楽』(84年、野間文芸新人賞)『彼岸先生』(92年、泉鏡花文学賞)『退廃姉妹』(2006年、伊藤整文学賞)『カオスの娘―シャーマン探偵ナルコ』(08年、芸術選奨文部科学大臣賞)『虚人の星』(16年、毎日出版文化賞)『君が異端だった頃』(20年、読売文学賞)など(「BOOK著者紹介情報」より)
〆