MENU
ホーム » 書評 » ミステリー » 『 或るスペイン岬の謎 』 柄刀一 国名シリーズ最終作 書評・感想
この記事の目次

『 或るスペイン岬の謎 』 柄刀一 国名シリーズ最終作 書評・感想

  • URLをコピーしました!

当サイトはアフィリエイト広告を利用しています。

或るスペイン岬の謎 』柄刀一 書評・感想

目次

物語

第一話『 或るチャイナ橙の謎 』の物語


最初の舞台は、奈良総合芸術大学の学園祭のサトゥルヌス祭である。
このサトゥルヌス祭は、古代ローマ時代のもので、すべてをあべこべにすることとバカ騒ぎが特徴だった。
しかも、社会的役割の入れ替えをしたという点が面白い。たとえば、奴隷と主人の関係さえも、この祭の期間だけ反転した

登場するのは、大学祭に招かれた国際的な中国の書家シュー・ユアンや殺されることになる大学の橘教授らと祭を準備していた学生たちである。

南美希風とエリザベスが展示サロンで学生たちの作品を鑑賞しているころ、祭の準備について橘教授に聞きたいことがある学生が、橘教授に連絡がつかないと困っているという事態が進行していた。

橘教授を探す過程で、会場の造形デザイン学科準備室に鍵が掛かっていて開かないということに気づいた学生らは、別の教授の許可を得て、ドアをぶち破って準備室に侵入すると、なんと橘美登理教授(三十九歳、女性)が横たわり、背中に刃物が突き刺さっていたのだ!

ドア三つと窓一つは施錠されており、完全な密室となっていた。
死体の顔は焼かれて、ほんとうに橘教授だという確信が持てない上に、背中にあったという痣の位置に刃物が刺さっていたため、橘教授であると判断する材料が消し去られていた。


しかも、頭には偽装した鼻が付けられていて、服は後ろ前に着せられていた。サトゥルヌス祭の演出に名を借りた殺人による(すべてをあべこべにする)演出ならば、悪ふざけの度を越えており許し難い。

警察の調査開始とともに、北海道警お墨付きの南美希風の推理が始動する。まずは、密室の謎を解く。

第二話 『 あるスペイン岬の謎 』の物語


和歌山県紀伊半島の南端、スペインのカタルーニャの海辺の町で見た巨大な人形祭りのような、この巨大人形火祭りは、第一話で出てきた奈良の大学生である滝沢生の父、滝沢厚司が主催している。

日本を旅するエリザベスにくっついて、カメラマンの南美希風は、和歌山県紀伊半島の南端に来ていた

滝沢厚司の妻のアリシアも炎に照らされて踊っている。

なんでも、娘の秋美(つまり大学生の滝沢生の義理の妹)は、放火魔だと揶揄されているらしい。

1年前に起きた、「放火をした秋美が襲われて死にかけた事件」を、南美希風とエリザベスがこの町にやってきてから起こった「二度目の秋美さん襲撃事件」と「滝沢厚司の義理の弟の事故死事件」を手掛かりにして情報を集め、推理して犯人を炙り出す。

この火祭りというものがほんとうにあるなら見てみたいと思って調べると、本小説の参考になったものかは分からないが、「トルコ民族舞踊」(小説ではスペイン舞踊の設定)が行われる「本州最南端の火祭り」があった。

第三話 『 あるニッポン樫鳥の謎 』の物語


厭世的な同居生活をしていた詩人の70代男性と化学物質過敏症の40代女性。
女性の方が、ある日亡くなってしまうのだが、発見時に密室であったということから、外出していた同居人の男が容疑者となった

警察は彼が犯人だと決めつけて捜査を進める。

「ある男女が二人だけで創り上げた、感情の場、共有する理想の詩的空間、独自の神話を、頭から否定し去るのも公平ではなく、狭量ではないかと感じる」という南美希風の思いには賛同する。

この刑事のことは、捜査に個人的嫉妬か羨望が混ざっているようなのと、口のきき方には嫌悪感を覚えるため、どうも好きにはなれない。

今回の物語は、約四カ月前の事件の回想で綴られる(この回想の中で、事件はほぼ解決し、同居人の男は南美希風のおかげで、冤罪を科されることはなかった)が、現時点は最後の謎が解けた確信を得るために、事件現場へ向う途中という設定である。

そして、その推理の確信を得たあと、美希風は、「死者は生者に優先しない」「救われるとは何か」「存在とは何か」と、自分に心臓を提供してくれたドナーや家族に思いを馳せて終わる。これでこのシリーズが終わりとのことだが、南美希風くんが登場する物語が、まさか、終わりでないことを祈ります。

著者プロフィール

1959年、北海道生まれ。鮎川哲也編『本格推理』への参加を経て、’98年、『3000年の密室』で長編デビュー。著書に『ifの迷宮』『密室キングダム』『密室の神話』『ミダスの河』『流星のソード』などがあり、今作は『或るエジプト十字架の謎』『或るギリシア棺の謎』『或るアメリカ銃の謎』から続く“国名シリーズ”の完結編である。(P378の説明から)

広告

心に残ることば

第1話 『或るチャイナ橙の謎』の心に残ることば
P44 『自分が死んだ後の、作品にまつわる刺激的な言動、その予測のつかなさこそが未来だ。未来世界を掻き回せる創造物を残そうとするのは、有限の命しか持ち得ない生命体の本能かもしれない』

第二話 『あるスペイン岬の謎』の心に残ることば
P123 『記憶は脳だけが司っているのではないというのが、最新の医学的な知見として現れはじめている。・・・皮膚でさえ・・・各臓器は、その生体の生活環境を効率的に、自動システム的に学習している・・・』

第三話 『あるニッポン樫鳥の謎』の心に残ることば
P345 『わたしのことを思い出すならば、微笑みと共に。』

展開の面白さ、見どころ

第一話 『或るチャイナ橙の謎』の見どころ

日本側の警察医が、エリザベスの父の教え子だというので、高レベルの議論が期待されるが、登場した刑事は田舎っぽく貧相というので、少々心配になる。

準備室と第二応接室が祭のメイン会場となっており、準備室では密室殺人が起こり、第二応接室では展示が妨害されているという二重の謎が仕掛けられていた。

第二話 『あるスペイン岬の謎』の見どころ

過去の迷宮入り事件が、現在進行形の事件や、関係する親戚の人々への聞き込みから推論していく様には驚かされるが、いわゆる天才探偵物語だと思えば面白い。

相棒の女性のキャラクターも頭脳明晰だが使用する日本語が男言葉だという点も推理に集中できるポイントである。

また、子どもを侮ってはいけないし、身内だから犯人じゃないなどとは思わない方がいい。

第三話 『あるニッポン樫鳥の謎』の見どころ

すでに犯人を同居人と決めつけている警察の捜査方針の下で、弁護士に同行した南美希風は、この刑事の決めつけを冷静に崩してゆく。

だが、その田舎刑事の捜査方針や犯罪の見立てもなかなか筋は通っているから、美希風も最初は納得したように刑事の説明をおとなしく聞いているだけで、読者もやや焦る。

考えを頑なに変えない相手に対して、丁寧に科学的にも正解を導いていく点が気持ちいい。

書籍・著者情報

・形式 単行本
・出版社 株式会社 光文社
・ページ数 380頁
・著者 柄刀一
・初版 2023年8月30日



よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
目次