あらすじ・感想
「灰かぶりの夕海」というタイトルからは全く内容が想像できなかったが、気になる装丁だったので借りてみると、ミステリーのようである。
突然、主人公千真(かずま)の前に現れた、死んだはずの恋人の夕海(ゆうみ)は、まるでタイムスリップしてきたかのようだ。
「インタールードの章」を読むと、未来っぽい内容のため、SFがらみのミステリーかと思わされるが、中盤以降で南海トラフ地震後のラブ・ストーリー&ミステリーであると分かる。
主な登場人物
・恩師金森先生と妻の陽菜さん
・主人公の波多野千真(かずま)、二十歳
・成瀬夕海(ゆうみ) 千真の恋人
・木下さん 和馬の上司
・謎の少女、この子も夕海という
主人公の千真(かずま)が道端で倒れていた夕海(ゆうみ)そっくりの少女を助けて、自宅アパートへ連れて行くことになる。千真の恋人の夕海は亡くなっている。
容姿、名前、出身地の御殿場、その他 死んだ夕海にそっくりだが、年齢は2つ若い。
千真には二人分を養う財力は無いので、新・夕海をバイト先へ紹介し、いっしょに宅配をしてもらうことになった。
千真の恩師である金森先生の奥さんと和真の恋人は、同じ災害で亡くなった。
和真は宅配のアルバイトをしており、ときどき金森先生宅へも配達している。
千真は金森先生宅へ、新・夕海の指導がてらいっしょに荷物を運んでいくことになる。
応答がないので、勝手に庭から家の中を見ると、その金森先生宅で女性が死んでいて、しかも先生は不在という状況に巻き込まれる。
家の見取り図まで出てきて、これは本格ミステリーの様相を呈してきた。
だが、庭からの出入口の縁側はほこりにまみれていて、足跡などもないことから、犯人が家から出た痕跡がないようである。しかも密室トリックだ!
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インタールードの章では、金森先生が妻を失った悲しみを癒すために、出会い系のアプリ「DISER」を使って、女の人と会うシーンが描かれている。
これが事件に関係していることは間違いない。
この事件の翌日、先生は海辺で遺体となって見つかった。
刑事の聞き込みで、金森先生の妻の幽霊の目撃情報をつかんだ。
千真の部屋で、新・夕海が亡くなった夕海の本の間から、千真と夕海の写真を見つけて、それを見つめていたが、なにも言わなかった。
その本のタイトルが『タイム・リープ あしたはきのう』 よくわからないタイトルであるが、SFっぽさを演出しているのか。あるいは、この小説の流れを暗示しているのか。
さて、ミステリーの謎解きは、最終章のイントロで、ぱっと視界が開ける。
まさか南海トラフ地震後の物語だったなんて思ってなかったから。
いろいろと謎解き的な説明が始まった。
そう、金森先生の奥さんと千真の彼女の命を奪ったのは、南海トラフ地震による津波。
金森先生の奥さんと千真の彼女は、別々だが共に助かり、二人とも記憶を一部喪失して生き延びていた。
そこへ、災害情報登録・検索アプリ「DISER」を悪事に転用する輩が現れる。
顔写真まで登録されている行方不明者に成りすまし金をだまし取ろうというのである。
そういうことができるのは、顔がそっくりな他人である。
アプリの中で、金森先生の死んだ奥さんのそっくりさんがこの情報を見つけたら、騙したくなるだろう。
夕海の情報をアプリでみた新・夕海も同じことを考え、千真もまんまと騙された。
災害情報登録・検索アプリ「DISER」のメッセージ機能を使って、出会い系アプリのように使う者が現れたのである。
こちらは最初から自分が亡くなった人と似た他人ですけど、有料で会いませんか?とメッセージを送るのである。
会えば、他人だと分かっていても金を使うのである。しかも訴えられることはない。
だが、死んだと登録された人間が実は生きていたという事案を想定していなかったため、金森先生宅で起こったような事件が発生するのである。
と、こんな感じで物語は進む。
謎解きというか、真相が淡々と語られ、読者としては、納得と驚きが入り混じる体験を強いられるのである。
ミステリー、災害、宅配事情、恋愛、SF? が絡んだ物語で面白いが、いわゆる本格ミステリーではないかなという点が、ひょっとしたら物足りないかも知れないが、それ以外のところはすべて面白いので、一読の価値があると思う。
書籍情報
・形式 四六版 単行本(ソフトカバー)
・出版社 中央公論新社
・ページ数 336頁
・著者 市川憂人
・初版発行 2022年8月25日
・分類 ミステリー
著者情報
1976年、神奈川県生まれ。東京大学卒。2016年『ジェリーフィッシュは凍らない』で第26回鮎川哲也賞を受賞しデビュー。他著に『ブルーローズは眠らない』、『グラスバードは還らない』『ボーンヤードは語らない』(いずれも東京創元社)、『揺籠のアディポクル』(講談社)、『断罪のネバーモア』(KADOKAWA)などがある。(本書の情報から)
〆